第34話:それは人のまま人を止めた者の模倣
遅れました。すみません。
かつて『死霊魔の巣窟』と呼ばれるダンジョンのボス部屋だったその場は、原型を留めないほど破壊されていた。
壁面には無数の弾痕が穿たれ、4本あった柱は斬撃によって折られていた。
床には呪いの炎によって焼け焦げた跡が広がり、その場の戦闘がいかに激しいかを物語っている。
もはやそこは悪魔を祀る礼拝堂ではない。
まるで怪物たちが暴れまわった結果のような瓦礫の山だった。
そして。
その瓦礫の間を、一つの影が走り抜ける。
「――っ!?」
エインズ4が咄嗟に大剣を振るう。
だが、その一撃は空を切った。
いない。
確かにそこにいたはずの少女の姿を見つけることができない。
慌てて首を横に振って相手を探す。
その時、後ろから声をかけられた。
「エインズ、下!?」
慌てて頭を下に向ければ、そこには姿勢を低くし、こちらへショットガンの銃口を向ける探していた女の姿があって。
「Install:Full Complete」
そして、その銃口には既に光が満ちていた。
「くそっ!」
大剣を振り下ろすのは間に合わない。
そう判断して、後ろへ飛び退るエインズ4。
しかし、結果的にそれは失敗だったと言わざるを得ない。なぜなら、
「『Clear Blast』」
銃という武器の機能上、弾丸はどこまでも直線へと進んでいくのだから。
「ガハッ!?」
ショットガンから放たれた水晶の散弾は、若干威力を落としつつも、むしろ距離をとったことによってエインズ4の全身を打ち付け、裂傷を負わせる。
それはカースサインによって強化された肉体強度によって貫通はしないまでも、着実に体力を削っていた。
「てめぇ…。」
「Set up:Spell editing Start」
「まかせて!『カースフレアショット』!!」
黒炎の弾丸が晶を襲う。しかし、それは必要最低限の動きで躱されてしまった。
「何であれで当たらないのよ!?」
「知るかよ。くそが。どうなってやがる。」
さっきからこれの繰り返しだ。晶が『イミテーター』とつぶやいてから、動きが変わった。
このダンジョンで最初に闘った時とも、ついさっき震えながら避けていた動きとも全く違う。
まず動きがおかしい。回避の時も必要がなければすれすれで避けてくる。さっきまではある程度余裕をもった動きをしていたのに。
「Break Barrel: Unknown Space Create + Element Light → Accelerate」
「チクショウがあ!」
振り下ろした炎と光をまとった一撃は、しかし皮膚を輻射熱で焼きながらも直撃しない。
おかしい。人を焼き切れる熱量なのだ。輻射熱さえ警戒してもっと大きく避けるべきだ。
カースサインのある俺たちと違う。特殊な再生能力もないのになぜダメージを負うような避け方をするのか。
そんなの、そっちの方が隙をなくせるからに決まっている。だから、さっきから追撃を行えていない。
「Enchant: Quartz Bullet:Acceleration & Overcharge = Burst」
次に詠唱だ。さっきから一発放っては、即座に詠唱に入る。
普通はそんなことしたくてもできない。詠唱はそれ相応の集中状態が求められるものだ。
しかも、魔法のプロセスが段々と短くなっている。
晶が使っているのは、単発式中折れ構造という単発のショットガンだ。
なのに、
「こいつ、いつリロードしてやがる!?」
「Expand:Create『Clear Barrel』. Extended Accelerate Zone」
どのタイミングからかは分からないが、晶はいつの間にかリロードをしなくなっていた。それがより射撃の回転率を上げていた。
観察力、集中力、身体制御能力、魔法への習熟速度。どれをとっても異常の一言につきる。
しかし、もっとも異常なのは、
「(こいつ、俺のことを見ていねえ……。)」
正しくは、人を人というオブジェクトとして見ているというべきか。
光のない、無機的な瞳孔。感情の乗らない視線は集中してこちらを見ているようで、全体を俯瞰しているようにも感じる。
そして、表情の抜け落ちた結果として残った表情は笑み。
彼女はどこまでも冷たく、詰まらなさそうに、とても美しく嗤っていた。
「その顔を、やめろおおおお!!」
その表情を凝視してしまい、魅入られたような錯覚に陥る。それを振り払うため、絶叫して大剣をたたきつけた。
「Extract Element:Anti Curse / Explode / Sharp Edge / Penetrate」
しかし、そこで晶が先ほどまでと違う動きをした。
ななめに突き刺さった大剣の腹を右足で踏みつけ、抑え込んだのだ。
「Install:Full Complete」
ショットガンの銃口をこちらへ向けながら。
「ちょ、ま」
剣を離して横へ避けるべきか、或いは無理やり振り上げて動きを阻害すべきか。
一瞬の悩みが隙となり、引き金を引く時間が生まれた。
「『Clear Blast』」
そして、再び水晶の散弾が超至近距離で放たれ、エインズ4の全身をくの字に折る。
「グ、ガアアアアアアアアアアア!」
それでも、大剣は離さない。これがないと、攻撃力が低下する以前に、闘うこともできない。
だから、腹から血をボタボタとたらしながら、必死に大剣に縋りつくように立って前を見る。
「Compile」
そんなつぶやきが聞こえて、背筋に悪寒が走る。
Compile。コンパイル。プログラムを実行ファイルとしてまとめるコマンド。
そんな連想が脳裏をよぎり、痛みにかまわず全力で叫ぶ。
「ルルーーーー!!全力で俺ごと撃てえええええ!!!」
「『カースフレアショット:オーバーチャージ』!!」
右側面に回り込んでいたルルが、極大の黒炎の球を頭上に発生させる。
「死んじゃえええええ!!!」
手を振り下ろす動きと連動して黒炎がこちらへめがけて放たれる。
それはどんどんと速度を上げていき、あと数秒後にはこちらへ着弾するだろう。
俺は大丈夫だ。そうエインズ4は思った。
なにせリジェネ(再生能力)があるのだ。体が焼け焦げていても、生き残れる。
ドガアアアアアアア!!!
着弾して、あたり一帯が黒炎に包まれる。
「グウウウウウッ……。」
全身を呪の炎に焼かれ、激痛にもがき苦しむ。
「グ、グハハハハハハハハ!!」
しかし、その顔には会心の笑みが浮かぶ。
これであいつも死んだはずだ。さすがに3人まとめて殺すのはできなかったのはまずいかもしれないが、うやむやにするには一人で十分だ。
そう思っているうち、炎が収まっていく。
気が付けば大剣を手放し、地面にはいつくばっていた。そして、顔を上げる。
相手の死を確認するために。
そして見たのは、
「Compile:Full Complete」
左半身を水晶の殻に覆われ、それでいて一切姿勢を変えないまま、ショットガンを突きつける晶の姿だった。
思考が停止する。現状を理解できない。いや、したくない。
呆然と見上げるエインズ4の前で、初めて晶(化物)の笑みの色合いが変わる。
血を流す唇がかたどっていたのは嘲笑。こちらを愚弄する邪悪な愉悦。
それに反応するまもなく、詠唱を続けていた口から抑揚のない言葉が紡がれる。
「私もリジェネ(回復能力)持ちなんですよ。残念でしたね。」
バレていた。見抜かれていた。いつ、どこでどうやって!?
そんなパニックになった思考は、
「Short cut『Clear Blast:Over Burst』」
激しい光とともに途切れた。




