第28話:生き残るには
私たちはエインズ4と闘っていた部屋から逃げ出すと、通路を走り続けていた。
二人は息が荒く、走れてこそいるがよろけて時々壁に手をついてバランスを整えていた。
あまり長時間走らせるのも厳しそうだったが、今はそうは言っていられない。
そうして、走りながらも全員の息が整うのを待つ。時々わき道から襲い掛かってくるゾンビを蹴り飛ばしてエインズ4たちの妨害にしながら私は話し始めた。
「…大丈夫ですか?」
「なんとか……。」
「ポーション貰ったからまだ動ける。」
憔悴した表情の二人が落ち込んだ声で答えた。
当たり前か。人に命を狙われるなんて経験、普通ならするはずもない。
それは戦闘を生業とする冒険者だって同じだ。我々は言うならハンター(狩人)であってアーミー(軍人)でもヤクザ(ギャング)でもないのである。
私はあえて速度を落として一番後ろに行くと、耳を澄ませる。
それなりに遠くから言い争いの声とこちらへ向かう足音が聞こえてきた。やはり逃がしてはくれないらしい。
時々、何かを壊すような音や、炸裂するような音が聞こえてくる。
「結構きついと思いますけど、足を止めずに聞いてください。」
二人は無言でうなずく。今はしゃべるのもおっくうなのだろう。
ただ、少しでも聞いてもらわないとこちらがまずい。
「あいつらの発言とさっきの大きな音からして、本当に入り口が封鎖されている可能性があります。」
「え…。」
どこか理解を放棄したような顔で二人が呆然とする。
「まぁ、ダンジョンの入口を封鎖できたとか聞いたことないんで嘘かもしれませんけど。」
ただ、うすうすこれが慰めだと分かっているのか、二人から返事はない。
「で、このまま入口まで向かってもいいんですが、ハイリスクハイリターンな選択肢もあるんですよね。」
「ハイリスク。」
「ハイリターン」
二人の顔色がより悪くなる。具体的なことまでは分からないが、嫌な予感だけは感じているのだろう。
「一つはあの二人を殺して安全を確保する方法。」
「ヒッ…。」
澪が小さく悲鳴を上げる。自分が人を殺す所を想像してしまったらしい。
「それはできればちょっと……。」
恒一も否定的らしい。まあ、それはそうか。これが選ばれるのは普通の高校生には酷か。
「二つ目がひたすら逃げ回って助けを待つ。ただし、いつ来るかもわからないですし、その間逃げ切れる保証なんてありませんけど。」
「え?でも、外に連絡取れないんじゃ。」
「いや、これ、忘れてませんか…?」
そう言って、あの戦闘でも壊れずに私たちを追尾し続ける撮影ドローンを指さす。
「「「あ!」」
「というわけで、連絡するまでもなく外に異常事態が伝わっているわけです。まぁ、この後これを盗聴とかに利用されても困るので電源切りますけど。」
そう言って走りながら肩をすくめる。足音的にさほど距離を詰められてはいないらしい。それが慢心から来るものか、或いは単純に体力がないのか。
後者だったらいいなぁ、とか思いつつ、襲い掛かってきたスケルトンの膝を蹴り砕いて放置。
さっきから定期的に行使して障害物を置いているのだが、後ろからは明らかに過剰な攻撃によって破壊されるような音が響いている。
あのカースサインとやら、平常心というか、自制心を緩める効果でもあるんじゃないだろうか。麻薬みたいに。
富田の反応的にそんな気がする。
「で、これが私的に一番いいやつなんですけど。」
「「ゴクッ」」
「シンプルにボス倒してワープで外に出る。」
そういえば、二人からポカンとした表情が返ってきた。
それに頓着することなく私は振り返りカメラに視点を合わせながら告げる。
「というわけでこちらの方針は提示しましたし、これ以上情報を抜かれるとまじでまずいので配信は終わりますね。」
そう言って、マジックバッグから取り出した拳銃を引き抜いて、引き金を引く。
無音で放たれた光弾が、ドローンに直撃して貫通する。
これで撮影は強制的に終わっただろう。
「なあ、晶。何で今更壊したんだ?俺たちの行動を相手に伝えたようなものだと思うんだが…。」
「まぁ、いくつかあります。」
私は水晶拳銃を腰のホルスターに戻すと、マジックバッグに手を入れながら答える。もちろんまだ移動は継続中だ。
「最初に相手に択一を迫ること。たぶん相手って人数はいないと思うんですよ。だから選択肢を提示すればうまくいけば入口で待機してくれるかもしれません。」
実際、遠くの足音が乱れている。どこからか入口へ向かうとかボスを倒しに行ったとか言われたのかもしれない。
「で、逆に救出部隊としてはこっちの動きを潰していけば確実に私たちを助けやすくなる。」
マジックバッグから研究のために買っていた水晶の欠片を手に取る。これは私の魔力から生み出したものではないから途中で消えることもない。
「あと、こっちの正統性の提示のためですね。ここまで来て私たちが打ち合わせしてたとか、犯人とつながっていたとか言われても嫌ですし。」
「そんなこというやついるのか?」
「いるんですよねぇ、これが。単純にシーリー・コートにイチャモン付けたい人とか、スペースプラントがこっちを道連れにしようとするとか、単純な陰謀論者とか。」
「うわー。」
そこまで言い終えると、私は握り込んだ水晶に魔力を流し込み、頭の中で練り上げた魔術を組み込んでいく。そして、重要な所だけを詠唱していく。
「これは杭、空間を固定する杭。そして杭でつながれしは、拒絶の祈りこめられし黒木壁。こめられし力尽きるまで一切を拒絶せよ。」
これで本来は終わりなのだが、今回は即興だが、追加の詠唱も込めていく。さっきの手ごたえ的に、これも行けるかもしれない。
「黒木壁は黒水晶。なれば一切の悪徳、害意、呪詛を拒絶し否定せよ。『クリア・ウォール』」
そう詠唱して足元に水晶の欠片をばらまき足を早める。
そして、背後からガラスが振動するような、キィーーーンという音が響く。
振り返ることはなかったが、黒い水晶製の壁が通路を封鎖しているはずだ。
「よし、これでバリケードが造れたので、時間稼ぎができます。適当な部屋に入って準備を整えましょう。」
私がそう言うと、二人はポカンとした表情のままうなずいた。




