第25話:シグナルロスト
私たちは休憩に使っていた部屋を拠点として、本格的な「狩り」を始めていた。
「『コンシール』、よし。」
私は全身に闇属性に偏らせた魔力を纏うと、足音を立てずにダンジョン内を索敵し始めた。
闇属性魔法『コンシール』。周囲の闇に溶け込み、気配を消す魔法だ。
そうして、角を三回ほど曲がった先の小部屋に息をひそめて入ると、そこには七体ほどのスケルトンとゴーストが屯していた。
作戦はこうだ。私がダンジョン内でユーンを偵察し、部屋へと誘い込む。入った瞬間、残りの二人が一斉に叩く。
私は数瞬、まだ試験中の武器を使ってみようかと考えた。だが、わざわざ今試す必要もないかと思い直す。
腰に吊り下げていた水晶拳銃を引き抜き、狙いを定めて静かに魔力を込める。
狙いはゴーストの一体。部屋の中央付近でフヨフヨと浮かんでいる個体だ。
「『クリア・ダーク』」
水晶を経由して増幅された魔力が、闇属性の弾丸として形成される。
引き金を引いた瞬間、それは音もなく射出され、ゴーストを貫いた。
「……!?」
ゴーストは一瞬歪み、魔石だけを残して弾けるように消えた。
周囲のアンデッドたちが一斉に騒ぎ出す。
見えない敵を探し、ぎこちなく周囲を見回すその動きは実に滑稽だった。
私はあえて姿を現すようにコンシールを解除し、ゴーストの魔石を拾い上げると、そのまま踵を返す。
――気付け。
――追ってこい。
背後から、骨の擦れ合う乾いた音と、風鳴りのような不気味な気配が一斉に動き出す。
私は振り返らず、来た道を駆けた。
要所で魔力弾を撃ち込み、注意を引きながら部屋へと誘導していく。
やがて拠点の部屋に到達し、私はそのまま中へと飛び込む。
入った瞬間、体を右に投げ出すように倒れ込んだ。
その直後、押し寄せるアンデッドたち。そうして、彼らは、
「『コールドブラスト』」
澪の放った魔法によって地面にたたきつけられた。
頭上から打ち下ろされた、極低温の衝撃がゴーストとスケルトンの動きを硬直させる。そして、
「『バーニアスラッシュ』!!!」
間を置かず、恒一の斬撃。
全身強化の加速を乗せた一撃が、凍りかけた敵をまとめて両断する。
残ったのは、砕けた骨と転がる魔石だけだった。
「よし、いい感じだな……おっと。」
「そうね。」
戦闘が終わるや否や、澪が恒一に飛びついた。
恒一はそれを当然のように受け止める。
……安定した、のだろう。
ただ、その代償か、スキンシップがやや過激だ。
別に羨ましいわけではない。
ないが……一人で立っている自分のほうが、どこか浮いているような感覚は否めない。
私は視線を外しながら軽く手を振る。
「じゃあ、もう一回行ってくる。」
「ああ、頼む。」
「気を付けてね。」
どこか気楽そうに手を振る二人を背に、私は部屋を出た。
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そうして、同じ手順で四回ほどユーンを狩り続けた。
うち二回はインプも混ざっていたが、吊り上げる段階で先にダメージを与えれば処理は容易だった。
どうやらインプは短気らしい。
軽く挑発するだけで、配下のアンデッドを引き連れてそのまま追ってくる。
その性質を利用すれば、位置取りを誤ることもなかった。
気付けば、ドロップアイテムも十分に集まり、突入からの経過時間も五十分近くに達していた。
私たちは余裕をもって攻略を進めることができていた。
それによって、大きな事件にまで発展するなど。
さすがの私でも、予想することはできなかった。
いや、正確には――
「あんな愚策」という可能性そのものを、無意識に除外していたのだ。
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「くそっ、どうなっている!?」
スペースプラント本部の一室。
豪華絢爛なその部屋で、一人の男がいらだちをぶつけるように怒鳴っていた。
「あいつらは新人の底辺じゃなかったのか!?」
その前のパソコンのモニターには、現在配信中のダンジョン攻略の様子が映っている。その中の彼女たちは、初めてのダンジョンに手こずりながらも、確実に討伐を重ね、罠を張ってどんどんと素材回収を進めていた。
最初は良かった。一人があまりの景色の悪さにパニックを起こしたときなどは、高笑いを上げてしまったほどだ。
そのままゾンビどもに食われて死ぬ。そんな悲惨な結末を、この男――スペースプラント会長である愛原作間は疑いもしていなかったのだ。
「おい、本当にこいつらが例の新人なんだろうな!?」
手に持ったスマホの先に怒鳴りつける。部が怪しくなってきたあたりで、部下にこいつらの身元を調べさせていた。しかし、
「だめです。本当にこいつら、まだ冒険者になって三か月ぐらいの新人です。ギルドにも顔写真付きで情報を請求しましたが、事前情報と完全に一致しています。」
「くそがっ!!」
(このままでは事前のプランが台無しだ。なんなんだ、こいつらの強さは。本当にDランクか?)
彼がそう思っても仕方がないほどに、晶たちの攻略風景は余裕のあるものだった。
配信のコメント欄は、賞賛で埋まり始めていた。
疑念の声はかき消され、流れは完全にシーリー側へ傾いている。
その後も作間はいくつかの場所に電話をかけたが、どれもうまくいかないという報告を受け、高級な机に拳をたたきつけた。
「くそがっ。どいつもこいつも、俺の邪魔をしやがって。このままじゃ、余裕をもってゴールされちまう。
そんなことになったら、俺のクランは信用ガタ落ちだ。」
「仕方がない。やるしかない。」
どこか壊れた表情を浮かべた作間は、とある場所に電話をかけた。
数回のコール音の後に、そいつは出た。
「俺に、電話するってことは、やっていいんだな?ヒヒッ。」
「ああ、手筈通りに。案内はあの子に任せる。」
「おう。これで思う存分暴れられるぜ、アヒャヒャヒャヒャヒャ……。」
そう言って、電話は切れた。作間は、不気味な笑みを浮かべて、画面の奥の晶たちに向けて語りかける。
「君たちが悪いんだ。君たちが俺の想定通りに動いてさえくれれば、ちょっと痛い目に遭うだけで済んだのに。
じゃあ、これでさよならだ。ククッ、クハハハハハ!!!」
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私たちは、残り10分になったあたりで、脱出に向けて動いていいか確認するために無線で通信を行っていた。
ここから出口までは最短で10分程度。そろそろ脱出に向けて動いてもいいはずだ。
ただ、
「……つながりません。」
私がそう言えば、二人は不思議そうな表情を浮かべた。
「つながらないって、応答がないってことか?」
「そうですね、シグナルロストです。」
「それ、やばくない?」
「やばいですね。どのぐらいやばいかというと、良くて電波障害で試験が中断。最悪の場合、何かしらの事故で入り口の人たちが全員死亡しているぐらいやばいです。」
二人は「そこまで?」という表情を浮かべているが、私からすれば、通信がつながらない時点でもう詰みというぐらいの認識である。
なにせ、私たちは言ってしまえば、シーリー・コートのためとはいえ、スペースプラント側のメンツを潰しているに等しい。
シーリー・コート側の無罪が証明されてしまえば、スペースプラントというブランドに傷が付く。少なくともシーリー・コートと関係のある組織はスペースプラントを締め出しにかかるだろう。
もし、もしだ。スペースプラントがすべてをなかったことにしたいとき、もっとも効果的にそれを行うなら、半分恐慌状態の人間が取る手段など、古今東西決まっている。
「……忙殺、ですかね。」
小さくつぶやいた私の言葉に、声を返す者はいなかった。




