第24話:ごくありふれたCランクダンジョン攻略
木の根で出来たゲートをくぐった先、そこは人工の洞窟としか言いようのない場所だった。
天然の洞窟を拡張した通路に、ところどころに差し込まれた松明。そうして、道のあちらこちらに掘られた小さな横穴。
私はこの時点でとても嫌な予感がしていた。具体的にはここが地下であることと、横穴が掘られているというあたりで。
そして。
「きゃーーー!?!?!?」
「ざけんなぁーー!?」
「叫んでる暇あったら攻撃!」
私たちは大量のアンデッド系のユーンから必死に逃げていた。
ゾンビ、スケルトン、ゴースト……よりどりみどりである。幸いなのは、ゴーストが魔力を含めば無条件でダメージを与えられるうえ、私たち全員が属性纏いを使える事だろうか。
そう、死霊魔の飼育場とは、文字通り死霊…アンデッドのエネミーが出てくるダンジョンだったのである。
ただ、実際に見ると、写真で見るよりも結構きつい。澪なんて横穴にあった骸が立ち上がった時点で半狂乱で逃げ出したほどである。
幸いなのは、こいつらが知能が低い下級アンデッドだったことだろうか。追いかけてくるだけで、遠距離攻撃をされることはなかった。
「ウーアー!」
「いやーー!?『アイシクルショット』!」
そして、地形もめんどくさい。このダンジョンは有名な地下墓地であるカタコンベを模しているらしく、いたるところに横穴がある。そして、その穴には結構な確率でゾンビかスケルトンが潜んでいるのである。
今も、横穴からゾンビに飛びかかられた澪が、必死の形相で超低温の水球をぶつけて迎撃している所だった。
しかし、足を止めることはできない。なにせ後ろから30体近くのゾンビ・スケルトン・ゴーストの混合軍が迫っているから。
ただ、面倒なのはそれだけではなくて。
「くそっ、また回り込まれてる!」
「強行突破!恒一、突貫!『クリア・フラッシュ』、ラピットファイア!」
「あぁ、くそがぁ!『ブラストアクセル』!!」
私が必死に水晶拳銃から『クリア・フラッシュ』を短縮詠唱で連射した所に、恒一が足裏から爆破を起こして突撃。
以前よりも格段に火力を増した、属性纏いの大剣で正面のアンデッドたちを薙ぎ払っていく。ゴーストにいたっては、余波だけで消し飛ぶほどの出力が出ていた。
そうして、正面の敵を一掃したとき、その奥、ゾンビたちの影に隠れていたそいつが姿を現した。
「でたぞ、インプだ!殺れー!!」
「『フェイルショット』、殺すコロスころすkorosu。」
澪の目が完全に座っている。本当にこの場が嫌らしい。
なぜ、私たちがインプ……小柄で角と蝙蝠のような羽を持った下級悪魔に
過剰な敵意をぶつけているかと言えば、単純にこいつが死ぬほど面倒だからである。
「お前らがゾンビどもを誘導するせいでろくに休めないんだよ、おらー!!」
恒一の言うとおりである。こいつら、アンデッドの指揮命令を行っているらしく、簡単だが先回りして挟み撃ちにしようとしてくるのである。さすがにこの狭い空間で30体を同時に相手なんてしていられない。
インプは澪の氷の礫を空中に跳んで躱し、さらに恒一の大剣も大きく後ろに飛んで避けた。
そして、バカにしたように耳障りな高い笑い声をあげた。
「キヒャハハハハハ!!」
「『クリア・フラッシュ:ハーフチャージショット』」
私は手早く闇の中に光の粒子を圧縮すると、あざ笑うインプの脳天にヘッドショットを決めた。
しかし、さすがは悪魔というべきか、頭部の半分を消失させながら必死に逃げようと振り向いた所で、恒一が追いつき、首をはねた。
「ナイス!グレポン行くので、横穴に入って!」
私がそう言えば、二人は慌てて死体のない横穴へ飛び込む。撮影用ドローンも澪と同じ横穴に入るのが見えた。
それを見て、小さく舌打ちしてしまった。道の真ん中に居たら、流れ弾に見せかけて壊そうと思っていたのに。
それはまあいい。今は後ろから迫ってくるアンデッドどもだ。
「『クリエイトクウォーツ(水晶生成)』」
手のひらの辺りの空間を支配し、複数の魔力塊を生成、圧縮し、小さな水晶の結晶を複数生成する。
「『これは爆弾、こめられ死力よ、我が言葉の後、爆ぜよ。』」
手に水晶を握りこみ、魔力を注ぎ込む。そして、それを背後から向かってくるアンデッドたちに適当に投げつけながら私も横穴へと飛び込む。
そして、最後の文言を唱えた。
「『クリア・グレネード』」
アンデッドの群れがばらまいた水晶の上に到達した瞬間、それらが弾け、砕け散った破片がゾンビの肉を引き裂き、衝撃波がスケルトンの骨格を砕く。
そして、生き残ったわずかなゴーストも、
「『リトルフェイルショット』」
澪が放った周囲一帯に氷を飛ばす魔法で消し飛んだ。
「さて、ようやくおちつけるな……。」
「そうね、疲れた。」
「ですね。」
私たちは十字路の奥にあった小部屋で休憩していた。あれからは一旦インプたちからの追跡を撒けたらしく、散発的な戦闘はあっても、追い回されるような目には遭っていなかった。
「にしても、ザックザクだな。」
「まぁ、否定はしません。」
そう言う恒一の視線の先には、大量のドロップアイテムが山積みにされていた。まぁ主にはアンデッドのドロップアイテムだ。
腐敗した肉だったり骨だったりが大半である。
ただ、それでもお金にはなる。魔力を含んだ肥料や、有機系の素材としてはそれなりの値段になるとかなんとか。
まぁそれよりも、メインはこっちだろう。
私はそう思って、右手でもてあそんでいたものを視線の高さまで持ち上げる。
「にしても、これが『悪魔の魔核』ですか。」
と言っても、基本は他のユーンが落とす魔石と同じだ。単純に魔力をふんだんに蓄えた石である。
ただ、悪魔のは特別性だ。確実にその魔石に『属性』が付与されている。これはその方向性に寄せた使い方をすれば、普通の物よりも圧倒的な効率で利用できるそうだ。
以前、自衛隊が雷を使うBランク悪魔を討伐したとき、その悪魔から出た悪魔の魔核は、それ一つで東京都の1か月分の電力を賄えるほどの性能を示したらしい。
ちなみに、悪魔以外でも似たような性質を示す魔石はあるらしいが、それぞれ微妙に特性が違うとかなんとか。
ここら辺はまだ民間にまで情報が降りてこないので、何とも言えない。
ただ、インプの魔石……闇属性を含有したこれが、まあ結構なお値段で売れるのである。
「にしても、これで大体20分ちょっと……。あと5分休むとしてあと半分ですか。」
「そうね。でもまぁ、これ以上奥に行かないなら大丈夫だと思うわ。」
「ですね、別に今回はボス戦をしに来たわけじゃありませんし。
あ、そういえば、知ってますか?このダンジョン、ボスを倒すと入り口までのワープホールが開くらしいですよ。Cランクだと結構珍しいらしいですね。Bランクからはデフォルトらしいですけど。」
「「へー。」」
そんなたわいもない会話をしながら、決して、入り口から目を離すことはない。
私たちの頭上を、ドローンが監視でもするようにせわしなく動き回っていた。
試験突破まであと30分。




