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心臓が水晶になった私、助かるために現代ダンジョンを攻略することになりました  作者: 彩名氏シエル
第2章「シーリー・コート」編

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第22話:突入前

私たちを乗せた車は高速道路を抜け、山奥へと入っていく。

その瞬間、周囲一帯の空気が一気に重くなったように感じた。

濃い……。これが訓練前では感じられなかった空間の魔力濃度。それまでとは段違いの濃さだ。

これがダンジョン周囲の空間なのかと、ダンジョンが異常な領域であることを再確認させられる気持ちだった。

二人も似たようなことを思ったらしい。後ろで息を飲む音が聞こえた。

車中で送られてきたチャットによると、今回攻略するダンジョンは「死霊魔の飼育場」という所だ。

説明を見ているのだが、なんというか、Cランクの中でもちょっと異色な所のようだ。説明はおいおい行うが、まぁ普通のDランク冒険者が初見で挑むところではないとは思う。

それはともかく、各々ができるようになったことなどをすり合わせていると時間があっという間に流れてしまい、気が付けばダンジョン前に到着していた。

私たちが荷物を持って車から降りると、そこにはテントが張られ、何人かの人々が忙しそうに機材をそろえている所だった。

そして、その奥。周囲をコンクリ壁に覆われたこの空間のもっとも山頂方向にそれはあった。

異様にねじれた樹木の根が絡まりあい、一つの構造物を形成している。それは天然の洞窟にも、小さな祠にも、邪教の祭壇にも見えた。

そして、そこからは厖大かつどこか禍々しさを感じる魔力があふれている。

間違いなくあれがダンジョンの入り口だろう。

ちなみにだが、クランが管理しているダンジョンでは周囲を頑丈な建物や防壁で覆う義務がある。それはスタンピードの時の時間稼ぎという意味合いもあるが、外からの侵入者を防ぐ意味合いも持った、大切なものだ。

周囲をちらりと見やれば、高いコンクリ壁で囲われていて、並大抵の者では出ることも入ることも困難だろう。

閑話休題。私たちがどうすればいいか分からず立ち止まっていれば、気が付いたスタッフらしき一人がこちらへ向かってきた。

「あ、今回の攻略者の方々っすね。こっちっす。」

どこか慣れていない動きのまま、男はこちらを振り返ることもなく歩いていく。

「なんか印象悪くね?」

「まぁ、そうね。なーんか嫌な感じ。」

背後で恒一と澪が顔をしかめながらそう言っているのが聞こえる。私は一度周囲をぐるりと見回してから答えた。

「その程度ってことでしょう。スペースプラントというクランは。」

そう言って、さっさと先ほどのスタッフの背中を追うように歩き出す。二人はどこかしぶしぶという空気を纏ったまま歩き始めた。

仮設テント内は意外に人が少なく、大きめのスクリーン一つと脇には大型のドローンのようなものが置いてあった。

そして、そのスクリーンには二人の男性が映っている。

「おや、来たようですね。」

そう言ったのは今回の問題の中心人物の一人であるシーリー・コート(夜の妖精)クランマスター、綾小路隼人。

彼は相変わらずどこか軽い印象を与える笑みを浮かべたままディスプレイに映っているであろう相手に向かって話し掛けている。現状はこちらにとって都合の悪い状況のはずなのに態度が変わっていないのは、さすがというべきだろう。

「そうですな。やれやれ、彼女たちが被害者とはかわいそうに。」

そう大仰に嘆いて見せたのは細身の男だ。かなり整った顔立ちは相手に好印象を与える柔らかなもの。そこだけ切り抜けばうちのクランマスターと同じかもしれないが、それがどこか演技臭いのが差別点と言えるだろう。なんというか、演出で自分を引き立たせようとしている小物のような滑稽さがあった。

「はぁ、ですから。彼らは我々が十分な実力があると判断したから入れたのであって、決して無茶なことはさせていないんですがね。」

「そうは言われましても。あなた方のクランに入れるというのはそれだけの無茶をやらせるのに十分な餌になるでしょう?しかも聞いたところによれば彼女たちは冒険者になって半年も立っていないそうじゃありませんか。それで信用しろというのが無茶な話でしょう。」

「まぁ、一般的にはそうですね。ただ、才能のある子というのはいる所にはいる者で。」

「おやおや、それは。」

「いえいえ、それほどでも。」

……なんというか、こっちそっちのけで舌戦が繰り広げられている。ここにいるスタッフたちや私の隣りに座った恒一と澪はどこか居心地悪そうに身じろぎをしていた。

私はと言えば、この程度ならまだかわいい方だと思っているので、持参の水筒からお茶を飲みつつ適当に聞き流していた。

そうして数分ほど嫌味の応酬が続き、それは止まる気配を見せない。だんだん周囲の人たちの顔色も悪くなってきた。どうやらこういう胃に来るような経験はあまりしてこなかったらしい。

特に隣りの恒一が胃潰瘍で血を吐きそうな顔をしていることだし、いい加減遠回しな罵声も聞き飽きたので口をはさむことにする。

私は大きく二度手を打ち鳴らした。そうするとスクリーンに映し出された大物二人がこちらへ意識を向けたのが目の動きで分かった。

「私たちはこんな無駄な話を延々と聞かされるためにここに呼ばれたんですかね?早めに本題に映った方がよろしいのではないでしょうか。さもないと……フフッ。」

程度の低さが露見するぞ。そんなニュアンスを込めて言った言葉はどうやら二人にしっかり伝わったらしい。よかった。昔の翼先輩をまねてみたが、しっかりできていたらしい。

クランマスターは自分がヒートアップしていたことに気が付いたのかばつが悪そうに小さく頭を下げた。

それに対してスペースプラントのクランマスター……後に聞いた話だと愛原作間というらしいが顔を真っ赤にしてこちらをにらみつけてきた。

しかし、私はどこ吹く風と言わんばかりに水筒に口をつける。周囲の空気は災厄だ。全員が「やりやがった」という顔でこちらを見ているが、知ったことではない。

あんなことに長々と時間を使う方がやらかしだろうに。

「ゴホンッ。確かに長話が過ぎましたね。本題に入りましょうか。」

「……ちっ。そうですな。あまり時間を取らせるのも良くないでしょう。」

そう言って、二人の冒険者クランの代表は真剣な顔になると今回のダンジョン配信について語り始めた。


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