第20話:悪意の介在
時間があったのでサプライズ投降です。
できれば今日から毎日投降できるよう頑張っていきます。
訓練開始から7日目、愛原ルルが襲撃して火野さんが公開告白(自爆)してから二日目の日曜日。
私と火野さん……いや、恒一、そして澪は訓練施設の玄関ホールで合流していた。
今日は訓練最終日。今日の訓練内容はパーティ連携の再確認である。
実際にダンジョンに向かい、それぞれ何ができるようになったのかを確認しながら連携の再構築を行う。担当教官の一人が同行し、相談に乗ってくれるというのだから至れり尽くせりである。
ちなみに、火野さんの呼び方が恒一になっているのは、あの日の醜態を見てさすがに名前呼びはと思ったからである。
パニックになって何が何やらという状態の恒一からさらっと許可を取った。後で気が付いた時、かなり愕然とした表情をしていたのが面白かった。
ちなみに、そんな私を澪がジトっとした目で見てきたことをここに補足しておく。
まぁ、私にそういう意図はまったくない。というか、正直今は恋愛に余り興味がない。そもそも恒一はそこまでタイプではない。
二人の目の前でそういう風に言ったらなんか二人にドン引きされてしまった。
恒一ならともかく、あれから彼からべったりな澪にまでなんだこいつという視線を向けられるのは心外である。
閑話休題。
そんな一見平和な状況だが、なにか周囲の様子がおかしい。
一部の冒険者がいらだっているし、職員はなんだか不安そうにしている。
何かあったのかもしれない。心当たりがあるにはあるが、ここまで全体に影響があるとは想像していなかった。
なんとなく落ち着かない気持ちでフロアの隅に集まっていると、サブマスターがまだ集合時間でもないのにこちらへ近づいてくる。
それに気が付いた私たちはそろって頭を下げた。
「「「おはようございます。」」」
「おはよう。さっそくなのだけれど、ちょっとついてきてちょうだい。」
いつもの余裕のある表情とは少し違う、どこかぎこちない笑みをうかべたサブマスターは手早くそう言うと来たのとは別の通路へと入っていく。
私たちは顔を見合わせると、荷物を持ってその背中を追いかけた。
「すまない。面倒ごとだ。」
げんなりと下表情で画面に映ったクランマスターが、開口一番そう言ってきた。
「いや、いきなりそう言われても分からないんですが。」
私がそういえば、苦り切ったその顔にわずかに苦笑の色が混じる。
「すまないね。ちょっとあまりに苛立たしかったものだから、性急になっていた。」
そう言って何度か深呼吸していくうち、彼はいつも通りの飄々とした表情に戻っていった。
「それで、何があったんですか?なんか朝からスタッフさんが変な感じだったんすけど。」
そう言ったのは恒一だった。クランマスターは手元のパソコンで何かしらの操作を行いながら答える。
「それがさ、端的に言うとうちに喧嘩を売ったバカが出てきた。」
「「「は?」」」
私たちは唖然として二の句が告げなかった。
なにせ、言うまでもないがこのクランはとても大きな組織だ。人員という意味でも、影響力という意味でも冒険者クランの中で頭一つ二つは抜けている。
そんな場所に喧嘩を売るなど自殺行為にしか思えない。
ただ、私はとても嫌な予感がしていた。大きいということは、行ってしまえばそれだけ多くの利権を持っているということだ。もしその一部でもかすめ取れれば厖大な利益になるし、信用に傷がつけばそれはそれで周囲が騒がしくなる。
「クランは冒険者ギルドの下部組織というのは知っているね?」
私たちはうなずく。それはクランについて調べれば簡単に分かることだ。
「で、昨日の昼頃、ギルドに一つの告発状が届いた。
『クラン:シーリー・コート(夜の妖精)が経験の浅い新人をだましてクラン所属を餌に実力不相応なダンジョンにて無茶な素材採取をさせている』というものだ。」
「……。」
「『我々は健全なクラン運営を担うものとして、これを見過ごすことができない。そのため、クラン:シーリー・コートへの立ち入り調査ないし、被害者の冒険者の実力提示を求める。』」
「……。」
「要約すればこんなふざけたものが届いたらしくってね。いやー、困った困った。」
「……いや、一言言っていいですか?」
「どうぞ、晶君。」
「面倒くさい。」
「だよねぇ。」
私もクランマスターも笑っていた。ただ、その目は一切笑っていなかったが。
ちなみに後ろの二人は、自分たちが大事に巻き込まれたことを察して何も硬直してしまっている。
「さて、ここからが本題だ。」
「はい。たぶん相手の目的は……。」
「そう、相手の目的は……」
「「『信用の失墜』ですね/だね。」」
「え、あの、二人で分かっていないで、こっちにも説明が欲しいんですが……。」
おずおずと言った調子で澪が小さく手を上げて聞いてくる。
私は視線でどちらが話すか確認して、そちらがどうぞと言わんばかりに肩をすくめられたのでこちらも肩をすくめながら答える。
「そこまで複雑じゃありませんよ。」
「というと。」
「まぁ、こんな文章が出た時点でこのクランは若干ですが組織としての信用に翳りが生まれています。」
「まぁ、そうだな。」
「で、立ち入り調査をされたら隠蔽だ、どこかに証拠があるはずだと叫ぶんでしょうね。そうすればまぁじりじりと信用が削られていくから。」
「ん?どうしてそうなるの?」
「考えれば簡単よ。ずっとそんな主張され続ければもしかしたら本当にあくどい事をしていたんじゃないかっていう不安が満ちてくる。」
「あぁ、確かに。」
「まぁ、悪魔の証明だからどうしようもないのよ。で、さらに私たちが本当にCランクのダンジョンに特攻させられていたら実力提示なんてさせられないでしょう?」
「そりゃそうだ。」
「まぁ、ここは幸いというべきか、私たちは逆ランク詐欺とでもいうべきランク以上の実力を持っているからそっちを見せて証明しようって話よ。」
「えぇ、そうね……って、えぇ!?」
「どうしたの?」
「私たち、実力示せって言われたってこと?。」
「そうだけど。」
「それ、失敗したらどうなるのよ。」
「まぁ、潰れることはないけど、ちょっと面倒にはなると思うわよ。」
「実際、まぁそれなりに痛手だね。どうということはないけれど。」
私は視線を恒一と澪から離してテレビ画面のクランマスターを見やる。
「で、実力を示せということですけど、方法は?」
「うーん、」
ちょっと言いにくそうに言いよどんだクランマスターだったが、一息ついて真面目な表情で告げた。
「ダンジョンの攻略配信だよ。
しかも、初見のCランクダンジョンをね。」
それに加えて、やろうと思えばトラブルも起こせる状況だな。
私はそんな風に冷めた気持ちで思ったが、口にすることはしなかった。




