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クリスタル・ウェポンズ~心臓が結晶化した私は助かるために現代ダンジョンに潜る~  作者: 彩名氏シエル
第2章「シーリー・コート」編

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第13話:いわゆる強化イベント

「強化訓練……ですか。」

私がそう聞き返すと、クランマスターは嬉しそうにうなずいた。興味があると受け取られたらしい。

「そうそう、強化訓練。性格に言うと、うちの企業で定期的に行ってる訓練の一つでさ。Bランク以上のメンバーが個別で1週間付きっ切りで後輩を指導するっていうイベント。」

「は、はぁ。そんなのがあるんですね。初めて知りました。」

「うん。まぁ外には一切漏らしていない社外秘の物だけど。ほら、それを目当てにクランを目指されても迷惑だし。このクランはあくまで素材採取・研究・販売を行う営利集団であって冒険者の互助団体じゃないからね」

「なるほど。」

その意見に私は膝を打つ思いだった。確かにこのクランは互助団体というよりは企業だ。だから訓練をしているというのはともかく、Bランクの冒険者が直接指導してくれるというのは伝えるには大きすぎる情報なのだろう。

訓練ばかりに熱を入れて、クラン側の仕事をしない人はそれなりにいそうだし。

「それで……私が訓練ですか?」

「そうだね。君だけじゃなくて火野君と白雪君も受けるといいよ。聞いた感じ、ちょっと距離置いた方がよさそうだし。」

「それは……お心遣い、ありがとうございます。」

私は頭を下げた。確かに今の澪は火野さんと距離を置いた方がいいだろう。ちゃんと解決方法は示したのだから、後は自分の感情を整理できれば落ち着くはずだ。

「で、ちょっとこれの内容に関係あるんだけどさ。」

そう言ってクランマスターは私がさっき渡したUSBメモリを指先でつまんでヒラヒラと振って見せる。

「またですか……。もう勘弁してくださいよ……。」

うんざりとした気持ちでそう返してしまう。私の特性が希少で、それがこの厄介ごとを呼び込んでいるのは分かっているが、それでも嫌な物は嫌だし、精神的に消耗してしまう。

「そんな嫌な顔しないでくださいよ。こっちだって貴重な使用者を見つけて、これの理論を検証する絶好の機会を逃さないように必死なんです。」

「そう言われても、こっちの胃が持たないです……。あと、その理論危なすぎて下手に学びたいとも思えないんですよ。」

消え入りそうな声で言えば、クランマスターはまぁ気持ちはわかるけどという表情をしていた。ただ、容赦はしてくれないらしい。雰囲気がそう言ってる。

「それはともかく、実はこの理論で空間魔法を使っている人がうちのクランに一人いまして。あなたのことを聞いて興味津々なんです。」

「つまり、その人に訓練してもらえ……と。」

「そういうことです。ついでに複数人で検証した方が新しい発見もあるでしょうし。今までは自己鍛錬だけで行き詰まり気味だったそうなんです。愚痴られるこっちの身にもなって欲しい。複雑奇怪で使えない理論の説明をされても何も言えないんですよぉ……。」

最後の方は小声でつぶやくように言っていた。どうやらその相手の愚痴に相当突き合わされていたらしい。

「お疲れ様です。」

「は!?……すみません。ついいつもの愚痴が……。一応社内チャットには入っていましたよね。あとで申し込みフォームのリンクを送っておくので手続きをしておいてください。あと、その1週間は学校にも行けないので親と学校への連絡も忘れないように。」

それで、この話は終わった。

私は部屋を出ようとしたとき、聞き忘れていたことを思い出した。

「あ、マスター。聞き忘れてたんですが……。」

「ん?どうしたんだい?」

近くに置いていたティーカップで紅茶を飲みながらクランマスターは首をかしげる。

私は一息ついてから気になっていたことを聞いてみることにした。

「何で翼先輩のことを聞いてきたんですか?しかもわざわざ別のテキストに分けて。」

「!?……ゴホッ、ゲホッ……。」

そう言った瞬間、クランマスターはむせてしまったらしく、大きくせき込んでのどを抑えた。

「だ、大丈夫ですか?」

私が慌てて駈け寄ると、クランマスターは大きく息を吸い込んでからその場にへたり込んでしまった。

「えっと、あの……。誰か呼びましょうか?」

私がそう言えば、クランマスターは首を振った。

「大丈夫。ちょっと驚いただけだから。それにしても、そうだよねぇ。そりゃ聞くよねー……はぁ。」

「あぁ、うん。……言いたくないけど、さすがに言わなきゃなぁ……。はぁ。」

数分、唸るように考えていたが、あきらめたように天井を仰いでから話始めた。

「えぇっと、君と師匠……星崎さんの関係を先に聞いていいかい?」

「中学時代の先輩後輩です。あと同じ生徒会に入っていました。」

「あぁ、うん。同じ生徒会にねぇ。ご愁傷様。」

「……何やらかしたんです?あの人。」

クランマスターは疲れたような顔で答える。

「ちょっと説明が面倒なんだけど……。平たく言えば命の恩人。ちょっと露悪的に言うとブートキャンプの鬼軍曹とマッドサイエンティストを重ね掛けで、俺と彩芽の師匠になった人。」

「えぇっと……。」

私が状況が分からずにいると、苦笑してクランマスターが言った。

「君は2年前の北海道のスタンピードを覚えているかな。」

「え?あ、はい。一応……。概要ぐらいは。」

「僕と彩芽は偶然それに巻き込まれてね。商談の帰り道だったんだけど、飛行機は破壊されて返れなくなって、シェルターには逃げ込めたけどいつ死ぬのか気が気じゃなかったね、当時は。」

私が黙っていると、クランマスターは懐かしそうに空を見つめた。

「で、とうとうシェルターにモンスター……当時はこっちの方がとおりが良かったからね。モンスターが攻撃してきて、もうだめと思って、彩芽だけは何とか逃がさないとって外に出ようとしたら、例の翼さんがあっという間に奴らを倒してさ。」

「なんとなくイメージできるのが嫌だ。」

あの人、焦ることとかあるんだろうか。迷っている所とか、反省している所は見たことがあるが、命の危険を感じたとしてもいつもの笑顔のイメージしかわかない。

「で、私たちシェルター組は彼女に頼んだんだよ。安全な場所まで護衛してくれって。お金は出すからって。でも彼女に「面倒だから」って理由で断られちゃってさ。でもなんか、そしたら力をつければいいとか言い出して。それからは地獄だったなぁ……。」

だんだんと目から光の消えていくクランマスター。私はその情景がまざまざと脳裏をよぎって、中学時代のトラウマがフラッシュバックして何も言えなかった。

数秒か、それとも数分だったのか分からない。

鉄の匂いがした気がした。

赤いものが床に広がって――

ナイフを握った手の感触が蘇る。

……だめだ、思い出すな。

先に我に返ったのはクランマスターだった。

「あぁ、ごめん。ちょっとトラウマが……。まぁ、こんな感じで、私たちは彼女の訓練を受けたんだ。君に渡した理論は、その時に彼女に教えられたことを文書化したものだよ。」

「は!?……そ、そうだったんですね。あの人ならそれぐらいやりかねませんね。」

「やっぱりそういう認識なんだ。神話回帰の前からそんな感じだったの?」

その顔はできればそうであってほしくはないという表情を浮かべていたが、私は大きく首を振った。

「私の知ってる先輩ならそういう発言しますし、その力があれば自分が助けるより力を付けさせるでしょうね。そっちの方が成功率が高いから。」

私たちは乾いた笑みを浮かべて、互いに疲れてしまい、今日はそれで解散することになった。

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