第6話:仮契約
「我々、クラン側のシーリー・コートは契約を結ぶ際、事前にいくつか規準があってね。基本的には3か月に一回Cランク以上の冒険者から申請書類を受け取って、そこから書類審査、試験、面接の3段階で分かれている。」
「え?俺たちまだDランクなんですが。」
火野さんが思わずという風につぶやいた。うかつだと思いつつ私も意見には同意である。
クランマスターはさして気にせずその疑問に答えた。
「で、この審査の段階だけど、特別枠がある。」
「特別枠、ですか。」
白雪さんが聞き返す。その特別枠に該当するのが私たちだと思ったらしい。
「そう、特別枠。簡単に言えば推薦枠だね。うちの一定以上の地位にいる人から推薦できて、その人はランク関係なしに書類審査を受けられる。」
「なるほど。ですが、私たちはシーリー・コートの知り合いはいないと思うんですが。」
私がそう言うと、クランマスターは何が面白いのか笑い出した。
「クククククッ……。そりゃそうだよ。彼は一方的に君たちを見て推薦してきたからね。」
「それ、大丈夫なんですか?信用とかいろいろと……。」
私が不安を感じてそう言えば、クランマスターは「普通ならね。」と意味深につぶやく。
「ただ、君を見かけたのは先月のスタンピードの時らしいね。だから君の英雄的行動も結構知っていたし、その点で人間性は担保されてたってわけ。」
「は、はぁ。」
私はあっけに取られてしまった。正直、あの時の事を知られているのはちょっと恥ずかしい。しかも英雄的行動とか言われてるし。
客観的に見ればそう言われても仕方がないと思うが、直接言われるとこう体がムズムズする。
「しかも、本田さんってかなりその辺がシビアな人でさ。初めてじゃないかな?この人が推薦出すの。他の部隊長はそこそこ出してるのにねぇ。」
そういってケタケタと笑うクランマスター。
私は推薦してくれた人が思っていたよりも大物で、背中にびっしょりと冷や汗をかいていた。
そう言えばタトゥーワーウルフと闘ってた時、援軍として来てくれた人の中にシーリー・コートって名乗りを上げてた人がいた気がする。たぶんあの人だろう。
「で、調べてみたらそれがEランクの新人ってことで。今のうちに取り込んでおけば成長が見込めるしってことで。その場にいた第3部隊の隊長である本田って人が推薦してきてね。」
「つまりは私たちの将来性を見込んでくれたって事ですね!」
白雪さんが弾んだ声でそう言う。しかし、火野さんはちょっと懐疑的に尋ねた。
「でもそれは清水の功績じゃないですか。俺たちまで呼んで良かったんですか?」
「ちょっと火野。」
「いやいや、いいよ。当然の疑問ではあるし。慎重なのも美徳だよ。」
そういうと、書類を取り出しながらクランマスターが続ける。
「それが君たちもランク平均を超えた実力がありそうってことで。むしろ二人がEランクなのを知って驚いてたぐらいさ。で、彼いわく、清水さんがCランク上位、二人もDランク中堅って見立てだったらしい。そんなのが新人の中で埋もれてたんだよ?ひきぬけるならひきぬいちゃいたいよね。」
そう言って手に持った書類をヒラヒラと振る。
言われてみれば納得である。私でもそんな逸材居たらできれば引き抜く。しかも断られても基本的にはデメリットもないし。しかし……。
「あの、すみません。」
「何かな、清水君。」
ちょっとふざけた調子で答えるクランマスター。後ろの事務員さんがとうとう胃を押さえて前かがみになっている。隣りのサブマスターは呆れたようにマスターのことを見ていた。
「えっと、その、言いにくいんですが。あの時の強さは私のアビリティ由来というか、常の実力ではないというか……。」
私がそう言うと、隣りの二人が驚いた表情でこっちに振り向いた。申し訳ないと思いつつ今は正面のクランマスターの顔から目をそらさないようにする。
「あぁ、うん。大丈夫。そんな気はしてたし。」
ただクランマスターの反応は淡泊なものだった。肩透かしを食らった私はたぶん仏頂面になっていたと思う。
「まぁ、気にしなくていいよ。アビリティも実力の内。短時間でもDランクがC1ランク上位の力を出せるってだけですごい事だし。」
あっさりそう言って手に持っていた2枚の書類の内の1枚をこっちに向けて滑らせてくる。
私はそれを受け取って読んだ。
「で、2段階目の試験についてなんだけど。基本はうちのクランで管理しているダンジョンで指定数のドロップ品の回収だね。君たちはDランクだからそこはちょっと考慮して、そこに書いてあるダンジョンでそれぞれ100個ずつ回収してこっちに納品してくれればいいよ。ただし期間は1か月以内。」
そこには三つのダンジョンの住所とそこに出てくるユーンの名前、そしてそこで回収できるドロップアイテムの一覧が書かれていた。
「僕たちが管理しているのは基本CからBランクのものだけど、低階層ならDからCランク下位相当だからたぶん大丈夫。それ以外に質問はあるかな?」
私たちは顔を見合わせた。私は一応二人にも書類を渡して読んでもらった。
火野さんは内容を流し読みし、白雪さんは穴が空くのではないかと思うほど読み込んでいた。
そこに性格の違いを感じながら私たちは特に質問がないことを伝える。
そうするとそれまで後ろに立っていた事務員さんが前に出てきて契約書を渡してくれた。なんとこの人、人事部の部長だった。
内心で、事務員何て思っていてすみません、と謝りつつ私たちは仮契約を結び、今日から三つのダンジョンをめぐることになった。
そうして、話も終わって社長室を出ようとすると、私だけ呼び止められた。
「あ、清水さん、家に返ったらこれ読んでおいて。あとそっちでも検証してレポートにしてくれると助かるよ。これは個人的なお願いで専属契約とは別に報酬は出すからさ。」
そう言って黒いUSBメモリを渡してきた。
私がそれを受け取って鞄に入れると「それ、社外秘の中でも一番厳重に管理しているやつだから気を付けてね。」と言われた。
慌てて返そうとしてものらりくらりとクランマスターとサブマスターになだめられてしまい、頭を抱えながら帰ることになった。
いったい、この中には何が入っているのだろうか。
帰り道の間、抱き込んだ鞄の中身に戦々恐々としながら私は深々とため息をつくのだった。




