エピローグ 下:It was a crack in the heart
意識が戻った時、そこは知らない天井でした。
という冗談はともかく。
あれから四日。私は病院のベッドの上にいた。ひどい怪我が残っているとかそういうのではない。検査入院である。しかも、かなりハードな。
この二日で2回も私は手術を受けたのである。しかも体を切り開く形で。まぁ、全身麻酔していて意識はなかったので実感はないのだが。
私が最初に意識を取り戻したとき、全身に重い疲労感と強い心臓の違和感を感じた。最初は疲労しただけだと軽く考えていたのだが、医者の先生に症状を伝えたところ、すぐに緊急手術で心臓の状態を確認されたのである。
結果、私の心臓は白く濁っていたらしい。ひび割れた窓ガラスが透明性を失うように。
これがどういう状況なのか、医者たちも判断できず、結局私はそれ以外に異常という異常もなかったため経過観察ということで入院になったのである。ちなみに同じ病院にいた火野さんと白雪さんはその日のうちに退院していったらしい。
そして二日後、私は医者に、心臓の違和感が薄くなったと告げ、自費で再手術を受けた。まぁ、感覚どおりに心臓の濁りはだいぶ薄くなっていたそうだ。
ただ、気になったのは一つ大きなひびが残っていることだろうか。先生いわく、心臓の動きに問題はないそうだが。
私は改めて「賢者の石板」を欲する欲求が強くなった。しかし、そうするにはBランクに上がった上で、300億円という個人で払えるかどうかも分からない支払いをする必要がある。
結局、今まで通りダンジョンに潜るしかないのである。
あのスタンピードでの被害も話しておこう。言語化するというのは頭の中をまとめるのに有効だ。
結局、あのスタンピードでの被害はかなりのものになったらしい。ダンジョンの周囲一帯は今も瓦礫の山状態で復旧のめどは立っていない。そして、死傷者数は300人。行方不明者は100人。その他重軽傷者1000人以上。
ただ、Cランクのダンジョンでのスタンピードにしてはかなり被害が少ないらしい。他の所で起こったものでいえば10万人の死傷者が出たケースもあったそうだ。
その要因はいくつかあるが、一つはここが大規模クラン「シーリー・コート(夜の妖精)」の活動地域であったこと、スタンピードにしては出てきたユーンの数が少なかったこと。
そして、私が人口密集地に近づいたボスを引きつけて、被害を最小限に抑えられたこと。
それらがかみ合って、奇跡的な被害者数で済んだとニュースでは言っていた。
あの場にいた私からすればそこまで被害を抑えられたとは思えないのだが、具体的な数値を出されて言われてしまうと、反論もできない。
というわけで、私にギルド経由で自治体・市役所・県庁・ダンジョン省から褒章と勲章が送られるらしい。
ギルドの職員が病院にまで来て、丁寧に教えてくれたのである。私は恐縮しきりで、互いにぺこぺこしていた。なぜか同席していた父親もぺこぺこしていて、母親が呆れていた。
まぁ、そんな感じで今回のスタンピードで私が関わることは終わった。あとは行政の仕事である。
私は病院のベッドの上で天井を見上げながら深々とため息をついた。
4月になってからさんざんな目にあってばかりだ。属性検査で光と闇のプライマルカラーだと判明して、それから心臓が水晶みたいに透明になって。
頑張って冒険者になろうとしたらタトゥー入りの強化されたゴブリンリーダーと戦う羽目になって、しかも今度はスタンピードだ。
呪われているんじゃないだろうか、私。いや、心臓が水晶みたいになった時点でいつ起爆するか分からない爆弾を仕込まれたような物か。
それでも、私は生きていきたい。だって、
「本質的に、生命が生きるのに理由は必要ない……でしたっけ、先輩。」
そんないくつも私に影響を与えていた先輩の言葉を思い出す。あの人はめちゃくちゃだったが、私に生活する上でのマインドを多く授けてくれた。
だから、その言葉に今は従おうと思う。私が生きたいと願うことに理由なんていらないのだから。
私は心臓を抑えながら、退院後の予定を建て始めた。
お読みいただきありがとうございました。これで1章完結です。
約3週間で1500pvを超えることができて驚いております。
2章開始は5月7日を予定していますので、お読みいただければうれしいです。
では、よいゴールデンウィークを。




