第25話:オーバーバースト
本日は2話投稿です。これは1話目になります。
私が首だけで振り向くと、そこにいたのは武装した30人ほどの集団だった。その中には日野さんと白雪さんもいる。
あと目立つのは、20人ほどいる同じシンボルを付けた集団だ。彼らは様々な武器を持っているが、その胸や肩に三日月と妖精をかたどったシンボルを付けている。
「おう、嬢ちゃん。よく頑張ってくれた。後は俺たちクラン『シーリー・コート(夜の妖精)』の第3部隊が請け負うぜ。」
戦闘を走っていたいかつい男性がそう言うと、私を追い抜いてタトゥーワーウルフを含めたブラットウルフの群れへ突っ込んでいく。
それに続いて、多くの冒険者たちとブラットウルフとの戦闘が始まった。
「おりゃー!」
「グルアアアア!!」
「死ねや、ごりゃー!」
「ぎゃいん!?」
「祭りジャー!狩れ、狩れーー!」
どんどんと戦いが広がっていく。タトゥーワーウルフはあのリーダーらしきおじさんと闘い始めている。
私が呆然としていると、
「おう、清水、ずいぶんと無茶したっぽいじゃん。大丈夫か?」
後ろから肩を叩かれた。私が振り向けば、そこには心配そうな表情の日野さんと、少し怒った表情の白雪さんがいた。
「な、何とか無事でした……。」
私がそう言えば、白雪さんがため息をついた。
「あんたねぇ……。何とかじゃないでしょうが。すぐに私たちが来る予定だったんだからあそこでもうちょっと粘りなさいよ。追いかけるの大変だったんだから。」
そう言って、軽くおでこを小突かれた。そうか、そう言えば二人と待ち合わせしてたんだから、あそこで待っていれば二人と合流できたんだ。
額の痛みを感じながら、視野が狭まっていたなと反省する。死体を見てからかなり焦っていたことに、今更になって気が付いた。
「さて、俺らも行くから、清水はちょっと休憩しててくれ。」
「そうね、あなたは十分頑張ったし、後は私たちに任せなさい。」
そういって、二人も戦闘へ入っていった。
私は一応注意しながら、戦場を俯瞰できる位置まで下がる。ビルの壁に背中を預けて体を休めながら、戦況だけは見過ごさないようにしていく。
全体としては、冒険者が優勢だ。時々怪我をしている人もいたが、すぐに別の人がカバーに入って全体として崩れる予兆はない。
ただ、やはりタトゥーワーウルフには苦戦している。複数人の高ランク冒険者らしき人たちが対応しているが、そこだけは若干厳しそうだ。
耳を済ませれば遠くからもここと同じような戦闘音が響いてくる。どうやら本格的にスタンピードの鎮圧が始まったらしい。
これを迅速ととるか、遅いととるかは微妙なところだ。
私も、いざというときは動けるようにしておかなければという危機感が膨らんでいく。そして、今私が警戒しなければならないのは二つ。
不意打ち。こっちは今のところ大丈夫そうだ。戦闘音で聞こえにくいが、多くのブラットウルフが行進してくる足音はしない。
そして、もう一つの危険因子。この場における単体戦力最強の存在。
このスタンピードの中心にして、おそらく人為的に強化されたダンジョンボス。目の前のタトゥーワーウルフを私はにらみつけた。
と言っても、私に何ができる?私よりも自力で上回る冒険者たちが苦戦する相手にどんな事ならできる?
罠を張る?論外だ。そもそも罠を張るための道具がない。
戦闘に参加?さっきまでならともかく、今すぐは無理だ。ようやく心臓の異音が止まってくれたが、強い違和感というか、心臓がゆがんでいるような感覚がしている。休憩させないとオーバーヒートでとうとう心臓が壊れかねない。
なら、魔法による遠隔攻撃だろうか。休みながらの一撃?だめだ。私のじゃかすり傷程度にしかならない。なら、止め、あるいは気を引く強い一撃?これは準備しておいてもいいだろう。
ただ、今の手持ちでそんなことできるだろうか……。
可能性があるとすれば……と手元の水晶拳銃を見やる。
クリア・フラッシュをいじくればどうにかなるのかもしれないが、これ以上威力を上げられるイメージがわかない。
何というか、今の制御力だと、暴発しそうだと感覚的に感じるのだ。
ならばどうするか、やはり粒子砲の強化と言えば圧縮・貯め撃ち・過剰出力とかだろうか。
……頭の中で私の腕を巻き込んで爆発するイメージが浮かぶのでこのままではだめだ。
なら、それ以外の手持ちはどうだろうか。
バックラー……今は役に立たない。水晶の属性纏い……近接でしか効果がない。
闇属性……。闇。吸収・圧縮・不明・恐怖。
私はおもむろに水晶拳銃を肩の高さに持ち上げると、タトゥーワーウルフに照準を合わせる。
そして、即興で、新しい魔法を構築し始める。
「設定開始:使用する属性は闇/光。
銃口の先端に闇を生成。性質は圧縮/吸収/不確定化。」
白雪さんがいうには、魔法の設計には2パターンあるらしい。
一つが感覚型。できるという強いイメージがあれば魔法として成立してしまうのだとか。ただ、それがそのまま強いにはつながらないのだが。
「闇の内部にて、クリア・フラッシュを生成、圧縮、生成、圧縮……。」
もう一つが理論型。私と白雪さんはこっちで、属性からイメージできることを想像して、そこから自分なりの理屈を組み立てて魔法として設計するというもの。理論立てている分、安定性が高いが、突飛な魔法を使うには発想力が試される。
「……生成、圧縮。安全ラインを超過。充填工程を停止して、射出工程へ移行。」
いつの間にか、集中のために目を瞑っていた。瞼を開いて確認すると、水晶拳銃の銃口の前に、闇の球体が発生していた。しかし、それは内部で異常なエネルギーを内包しているらしい。なんとなく空間がゆがんで見える。
それから、私の『水晶製魔機構の心臓』の違和感が強まっている。どうやら魔力を使いすぎたらしい。しかし、これを準備できればもう十分だ。
そして、私が再び戦場を見やれば、タトゥーワーウルフを囲っていた冒険者たちが耐えきれずに吹き飛ばされている所だった。しかし、吹き飛ばした奴も満身創痍で今にも倒れそうなほど傷ついていた。
私は改めて、銃口をタトゥーワーウルフに向ける。あいつもこちらをにらんできている。道ずれにでもしようというのか、飛びかかる姿勢を取った。
私も迎え撃つべく壁から背中を外し、両腕で拳銃をかまえた。
一瞬の静寂。一瞬、冒険者も、ブラットウルフも動きを止め、こちらに意識を向けた。
次の瞬間、タトゥーワーウルフが飛びかかってきて、
私は大きく屈んでそれを避けた。
鉈がビルの外壁を切り裂き、しかし途中で止まる。当たり前だ。ここまでの戦いですでに刃こぼれを起こしているのだから。むしろ途中までとはいえ鉄筋コンクリートを切り裂けたことに恐怖さえ感じた。
しかし、その内心の驚愕とは裏腹に、私の体は私の思い描いたとおりに動いて行く。
屈んだまま横にスライドして側面に回り込むと、今にも暴発しそうな闇の球体を装甲の薄い脇腹へと押し当てる。タトゥーワーウルフが驚愕と恐怖の表情でこちらを振り向く。
こいつに何があったのかは知らない。本当に恐怖を感じているのか、それともただの生物の模倣なのか……。どちらにしろ、私の動きに変わりはない。
私は一切ためらうことなく引き金を引き、詠唱を完成させた。
「ことごとくを穿ち貫け、『クリア・フラッシュ:オーバーバースト』」
そして、闇に白い罅が入っていき、次の瞬間、極太のビームがタトゥーワーウルフの脇腹を貫通した。
光が消えた時、その場は静寂に包まれていた。誰もが息を飲み、私とタトゥーワーウルフの闘いを見ていた。
そして、数秒その場で固まっていたタトゥーワーウルフだったが、次の瞬間全身が光の粒子に代わっていき、この世から完全に消滅した。
その場に残ったのは、金色に輝く、一つの大きな宝箱だけだった。
「……ふー。終わったぁ……。」
私はその場に倒れこむと、余りの緊張の糸が切れたせいか意識が遠のいていく。
最後に見えたのは、それまで見てきたものと一切変わりのない、澄んだ青空だった。
これにて、私が初めて巻き込まれたスタンピードは、ひとまずの終わりを迎えたのである。
次回、エピローグ。20時投稿予定。




