第24話:愚か者たち
本日は2話投稿です。これは2話目なのでお気を付けください。
魔法の増幅器、それは基本杖の形をしていると私は以前に言った。
しかし、現代においてそれ以外の形が試行錯誤されないということがありえるのだろうか。
答えとしては否。さまざま・多種多様・千差万別。黎明期特有の様々なデザインが出ては消え、その中でも採用された一部だけが店舗に並ぶ。
その中の一つにガンタイプというものがある。文字通りガン(銃火器)の形をした増幅器だ。
照準の付け方・形態性の2点においては杖を超える利便性をもつこの形だが、欠点もある。それは重量と杖の長さである。
重量は言うまでもなく、杖にとって長さ=増幅率との相関関係はすでに数値として明確に出ているものだ。そして、大きなライフル等ならともかく、拳銃やショットガンでは長さを稼ぐことができない。
その点において、一定の需要があるがガンタイプは主流とは言えない状態だった。
しかし、もし増幅率が良く、脆いため直接持ち運びに適していなくて、短くても問題のない加工技術があれば。
だから私は、これを作った。
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私がポケットから取り出したのは、ハンドガンの形をした魔道具だった。
父親が持っていたモデルガンの中身を取り出し、ダンジョンから手に入れた水晶を形状操作でピッタリとはめ込んで再度外装を整えた物。
一つの工夫として、持ち手の部分に穴を開けて皮膚と接触できるようにして増幅器として機能するようにした。
つまりこれは渡し専用のガンタイプの増幅器なのである。
名前は「CW-01 クリスタルブースター」。長いので水晶拳銃と呼ぶが。
私は人のいない方向へ駆け出しながら、それをワーウルフに構えた。
そして、事前に組み上げていた魔法を、水晶拳銃を通して放った。
「『クリア・フラッシュ』」
イメージするはロボットアニメの粒子法。魔力を粒子と見立て、光=エネルギーの塊とみなすことで物理干渉力を持たせた、私の初めての攻撃魔法。
それは、タトゥーワーウルフの肩に命中すると、わずかに貫通して出血させるほどの傷を与えた。
「ギャイン!?」
タトゥーワーウルフは想定外の痛みに悲鳴を上げる。私は何度か撃って、背中を向けて駆け出した。
「グウウウウアアアアアアアアア!!」
後ろから怒りに満ちた遠吠えとすさまじい速度で走ってくる音が響き渡る。私は周辺地図を頭に浮かべながら、定期的に振り返ってはタトゥーワーウルフをねらい打った。
挑発の効果はあったらしく、そいつは怒りの形相でこちらを追いかけてくる。他には目もくれていないので、目的は達成できた。
そして、たまに曲がり角で視線を切って休憩時間を稼いだり、ゴミ箱を蹴り飛ばして進路妨害したりして、私は目的としていた場所にたどり着いた。
そこは駅近くの交差点で、とても広かった。バトルスペースとしては十分だし、スタンピードのおかげで人もいない。近くからブラットウルフの足音とうなり声がするが、今さら気にしていられない。
ーーー十中八九、私はここで死ぬのだから。
母親には申し訳ないと思う。でも、今はこうするしかなかったのだ。私の人としての尊厳を守るために。
それに、今ならまだ、ほんのちょっとだけ助かる芽がある。考えれば助かる要素・死ぬ要素が多すぎて言語化できないが、私が考えうる限り、全体幸福を考えるならこれがベストなのだ。
だから、死ぬ気でこいつを足止めする。理想はギルドの高ランク冒険者が救出に来ること。最悪はスタンピードの本体がこっちに合流すること。時間は敵にも味方にもなりうる。
「だから、賭けに出よう。ハイリスクハイリターンこそは今の私の理想なのだから。」
自分の行動原理を言葉にして安心する。良かった。私はまだ『人間だ』。
私が足を止めて、逃げる様子もないことから、タトゥーワーウルフはここで仕留めると決意したようだ。
鉈を振りかざし、絶叫を上げ、こちらへ襲い掛かろうとしてくる。
私もバックラーを前に出し、水晶拳銃を隠すようにして腰を落とす。
互いににらみ合い、風がふけばそのまま戦闘が始まりそうな緊張感が一帯を支配する。私が右足に力を込め、タトゥーワーウルフが一段姿勢を低くした。その時、
「うりゃーーーーーー!!『ブレイブ・スラッシュ』ううううう!!!」
ビルの横道から、急に誰かが出てきて、タトゥーワーウルフに光る剣で切りかかってきた。急に出てきたため、私は驚いた。
タトゥーワーウルフも驚いたのか、そちらに顔を向けてしまっていた。
「うおおおおおおお!!」
そいつは剣をたたきつけるように振り下ろした。さすがにタトゥーワーウルフも強力な不意打ちに吹き飛ばされてしまった。その威力もすさまじいらしく、周囲に土煙が舞っていた。
土煙が晴れた時、そこにいたのはクラスメイトの富田だった。
なぜ、こいつが?確かCランクだと聞いたことはあったが、こんなところで人助けする性格でもないだろう。
私がポカンとしていると、富田が急にわめきだした。
「お前、この犬っころが!さっきはよくも俺に不意打ち噛ましてくれたなぁ!?犬畜生の分際でウザイんだよ。お前は俺が生み出した存在だろうが!!あの黒い水晶で強化してやっただろうが!!だからさっさと俺に殺されて、俺の名声の糧になりやがれ!!お前のせいで高かった緊急脱出用の札もつかっちまったし、高かったカメラも壊れたしよお!!死いいねええええ!!!」
総一通りわめき散らして、黒い剣を再び大きく振りかぶって、突っ込んでいく。
すでにタトゥーワーウルフは立ち上がっていて、その瞳は富田の動きを捉えているように私には見えた。
それよりも、
「……まさかやったのか?」
私の中で急速な疑念が膨れ上がっていく。富田の発言、あの時と同じ人為的に強化されているボス、タトゥーワーウルフの富田をなめ腐ったような侮蔑の視線。
あいつ、このスタンピードの元凶じゃね?
私が出した結論としてはこれに尽きる。しかもあいつこの大惨事起こしたことの自覚がない疑惑まで出てきていて、他人事ながら頭が痛くなってきた。
チラリと横目でビルの外壁を見る。そこには防犯カメラがついていて、遠目で分かりにくいがマイクもついているように見える。
「さっきのはまぐれなんだよおおお!!さっさとくらって死ねえええ!『カオス・ブレイブ・スラッシュ』うううう!!!」
富田の剣からワーウルフに刻まれているのと同種の黒いオーラが吹き上がる。そして、光と闇が混ざりあって、その威力を予感させた。
しかし、素人が持てば名刀もなまくらと化す。
突進してきた富田をタトゥーワーウルフは軽々と横に避け、その顔面に鉈を叩き込んだ。
富田は見事な放物線を描いて、ビルの向こうへと吹き飛ばされていく。
あの赤いのは鼻血で、わずかに光を反射しているのは折れた歯だろうか。
うわー、痛そう。というのが私の本音だった。
正直、あいつには同情する余地が全くない。だからと言ってザマーというには私はあいつを知らない。
結果として、他人事みたいな感想しか湧かなかったのである。
富田の姿が見えなくなって、その場は微妙な空気に包まれていた。私は完全に白けていたし、タトゥーワーウルフもどこか面倒そうにしている気がする。
たがいにどうしようかという空気の中、今度は大きな交差点の西側と東側から同時に多数の足音が響いてきた。
そして、私の視界にはタトゥーワーウルフの向こうから迫ってくる多くのブラットウルフの姿が見えていて、
きっとタトゥーワーウルフには多くの武装した人間が迫っている姿が見えているはずだ。
どうやら富田は、時間稼ぎという役割だけは果たしてくれたらしい。だからと言って罪が軽くなることはないだろうが。
「おい!清水うー!助けに来たぞー!!」
そんな聞きなれた声まで聞こえてきて、私は口角を上げた。
賭けは……私の勝ちだ。




