第22話:スタンピード
本日2話投稿です。これは2話目なので、お気を付けください。
ソロダンジョンに潜った日から三日後の土曜日。私は自室でダンジョンに向かう準備をしていた。
すでに防具を着込んでおり、武器はリュックサックへ押し込んでいく。警棒、よし。バックラー、よし。ナイフ、よし。連絡用のスマートフォン、よし。
そして、最後にようやく昨日完成した物をケースごと鞄に詰め込む。フォルスターが手に入ればよかったのだが、さすがに父親のコレクションにはフォルスターはなかった。
しかも、これを頼んだときもかなり躊躇された。押入れの奥に置いてあったんだからすぐに渡せばいいものを。思い出の品だとか、まだ使い道があるとうるさかったのである。
最終的には母親の折檻と私が目の前でそれの最新モデルをネット注文したことでようやく折れてくれた。未練がましく「僕の……」とか言っていたが、だから部屋の掃除ができないんだと母親に起こられていた。
そんな父親である清水湊は先ほど仕事へ向かうべく家を出たところだ。下では母親である清水友子がドラマを見ているはずである。
私は今回作った魔道具をリュックサックに入れ直して背負い込んだ。今日はパーティでダンジョン攻略の予定で最寄り駅で集合となっている。
何の因果か、私と火野さん、白雪さんの最寄り駅は同じだったのだ。ただ、家の位置は駅を中心に反対で、それなりに距離がある。そのため、ギリギリ学区が異なっていて、今までは遭遇しなかったらしい。
初めてそれを知った時はみんなで驚いたものである。
そのため、私たちが合流するときはもっぱら駅が多いのだ。
私が玄関でブーツを履き替えていると、母親が近づいてきた。
「晶、もう行くの?」
「うん。ちょっと急がないと。」
すると母親は心配そうにこっちを見ながら、こんなことを言った。
「気持ちはわかるけど……あまり無茶をしないで頂戴。調べたわよ?あなた、ダンジョンに行くペース、だいぶ多いそうじゃない。」
「あぁ……。」
私は母親から目をそらした。分かっている。確かに一般的な専業冒険者に比べても私のダンジョンへ潜る回数は多い。
それもこれも、「賢者の石板」が300億というバカげた値段なのが悪い。今から貯金しておかないといつ買えるかは、分かった物ではないのである。
幸いというべきか、冒険者は命を懸ける分実入りがいい。家に少しずつお金を入れても貯金をためることができる程度には。
そんな私の意図を汲んだのかどうか。母親はしょうがないなと言いたげに私の頭をなでてくれる。
「体調が悪くなったら言うんだよ。あと、絶対に生きて帰ること。病院なんて行ったらゲンコツだからね。」
「はい。」
このやり取りも何回目だろうか。毎回この言葉に支えられていることは自覚しているが、それを伝えるには恥ずかしい。
そんなくすぐったさを覚え、家を出ようとしたとき、
ビー !ビー! ビー! ビー!
というアラートが大音量で町中に響いた。
二人そろって体を硬直させてしまう。そして、何が起こっているか理解する前に爆音で放送が流れ始めた。
「緊急事態です!緊急事態です!東地区でスタンピードの兆候あり!!皆さま、落ち着いて、慌てずに自治体のマニュアルに従い避難を開始してください!!繰り返します。スタンピードの兆候が……」
私と母親は顔を見合わせる。しかし、すぐに母親の顔が青ざめていく。
「あ……お、お父さんが、今駅に向かってて、たしか西方面の下り電車に乗るって……。」
私もそれを聞いて、顔から血の気が引いて行くのが分かった。
そして、悩む。私なら、全力疾走すればスタンピードに遭遇する前に駅に行けるかもしれない。でも、母親を放置するのも。そもそも向こうだって近くにシェルターぐらい……。
「晶、ごめんなさい。お父さんを迎えに行ってくれないかしら。私はすぐ小学校に避難するから。」
母親が蒼白な顔で、それでも確固たる決意を見せながらそんなことを言った。
「え?で、でも……」
「いいから。今はお父さんの方が危ない。だからお願い。」
自分のことを攻めるようにそう言われてしまえば、私に断ることなどできなかった。
私は母親を駅の分かれ道まで送ると、そこで分かれて駆け出した。後方から「私が連絡しておくから全力で向かいなさい」と叫ぶ母親の声が聞こえたので、駆け足から疾走に切り替える。
町はどよめきと混乱の中にあった。周囲では住人たちが家の外に出て近所の人と話し合っている。彼らの顔には一様に不安と疑心の表情が浮かんでいる。
この地域ではこれまでスタンピードに襲われたことがないから、反応が鈍い。しかし、私が何か言ったところで動きが大きく改善するわけでもなければ、一人一人に声をかけている時間的余裕もない。
心臓がうるさい、ドクドクドクドクと心拍数が上がって、魔力の生成量も上がる。
私は魔力で身体強化まで行って駅まで急いだ。空を見上げると、遠くで火の手が上がっているのが見えた。
そして、遠くで何かの遠吠えが聞こえた気がした。
私が駅に着くのと、スタンピードの先頭が駅にたどり着くのはほぼ同時だった。




