第21話:愚者は踊りて幕は開く
※本日は2話更新です。これは1話目になります。
本話は別キャラクター視点でのお話となります。
富田史郎はいらだっていた。ここ最近、何もうまくいかない。
富田はこれまで、自分は選ばれた人間だと思っていた。
両親は裕福な家庭で、父親はこの地域の政治家一族の跡取りにして大きな企業の役員、母親は元有名モデル。しかも家ではとやかく言ってこないし、何かをやらかしてもお金で解決してくれる。
それで、富田はこの世界はコネと金でなんでも許されるんだと学んだ。
神話回帰とかいうファンタジー現象が起こってから、属性検査を受けた時も、周囲がうすぼんやりした無属性に対して、火・光・雷という超有用なプライマルカラーだった。
周囲からもてはやされ、言われるがままに冒険者にもなった。父親にはいい顔はされなかったが、派手な攻撃を撮影した動画を見せたら何も言わなくなった。
とんとん拍子にEランクからDランクに上がって、俺がこの世界の主人公だと分かってきた。
そんな自分にふさわしい必殺技も編み出した。Dランクに上がった時に教えられた属性纏いで属性を三つ重ねてそれを斬撃状に飛ばす『ブレイブスラッシュ』。これでDランクのボスも一撃で倒せた。
ボスに逃げ腰になったやつを蹴り出しておとりにして、背中を向けたやつに向かって放った時は、一撃でCランクボスさえも殺すことができた自慢の技だ。まぁ、その時におとりにしたやつは姿を見なくなったが、問題もなかった。
そして、冒険者になって1年。そのころには地域でも有名になってCランクへも上がれた。最速でないことは不満だったが、ギルドの美人職員から「かなり早い方ですよ。素晴らしいです。」と言われたので機嫌を直した。
取り巻きも増え、周囲に女と取り巻きを侍らせてダンジョンに潜って、キャーキャー言われながらお金を稼ぐ。
富田はこの世の春を謳歌していた。
ただ、うまくいったのはここまでだった。
最初は高校の2年生に上がった時だった。
クラスに学校でも有名な美女である清水晶が居たのだ。長くつややかな黒髪、怜悧な瞳、高身長で出るところは出て引っ込むところは引っ込んだモデルのようなスタイル。周囲の男子たちは気後れしていて声すらかけられない高嶺の花。
しかし、自分は違う。声をかけるだけで媚びた声で近寄って来るに違いない。そう思って声をかけたのに、あいつは一切の興味をこっちへ示さなかったのだ。しかも英語のそれっぽい本を読んでインテリまで気取っている。
その態度が鼻についてイライラしていた。
しかもそれだけではない。ダンジョン攻略もうまくいかないことが増えた。自分が悪いわけではない。取り巻きどもが役立たずのせいでこっちにまで攻撃が飛んできて怪我をするようになってしまったのである。
腕をざっくりいかれたときは怒りのあまりブレイブスラッシュを連発してザコを消し炭にして、それでも怒りは収まらずに攻撃を通した奴をその場で全員でリンチした。
それで余計に治療費がかかって収入が減っていく。お金に困っているわけではないが、もらえたはずのものがなくなるのは腹立たしくて仕方がなかった。
そして、ここ最近余計に苛立たしいことが発生した。噂で新人たちが想定外の強敵ボスを討伐して一躍有名になったらしい。どうやらそいつらは全員がプライマルカラーの3人組で、どんどんと頭角を表しているともっぱらの噂だ。
俺に侍っている女子たちも噂していて、しかもその3人組の一人がイケメンとのことで俺をそっちのけで盛り上がっていた。
俺はそいつらがそんな大物を倒せるわけがないと思い、偶然見かけた3人組の男を問い詰めた。どうせギルドにお金払って高ランク冒険者についてきてもらったんだろうと思って。もしくは変な魔道具でも使ってずるしたんだろうと。
俺の正義の講義もそいつは全然認めようとしない。それどころか俺の名前を出しても怯え一つ見せないのだ。
そうしているうち、こいつのパーティが来て、それがあの清水だと知った。平然と男と隣り合う姿を見てなぜそんなところにいるという怒りで我を忘れそうになった。しかし、ギルド職員が来ているのが見えて、反射的に逃げ出してしまった。
あの赤井とかいうやつ、俺に対して説教が多いのだ。面倒くさい。
そうして、路地の奥の奥、人通りもほとんどないビルのデッドスペースで立ち止まって膝に手をついて息を整えていると、
「富田史郎様でいらっしゃいますか?」
急に後ろから声をかけられた。
慌てて振り返ると、そこにはスーツをビシッと着こなした男が、胡散臭いうすら笑いを浮かべながら立っていた。
「なんだ、お前?」
気味の悪い表情に顔をしかめながら戦闘姿勢を取る。家柄的に、こういうのにたまに合うが、この手の胡散臭いやつは相手にしないように言われていた。
すぐにでも走って逃げようと思って、
「富田様、私たちはあなたに新しい力とその見せ場を用意することができます。」
その言葉に足が止まる。
じっと顔を見れば、胡散臭い表情のまま男は続けた。
「こちら、我が社が造った、最新の魔道具でございまして。」
そう言って右手に持ったトランクを地面に置いて開くと、そこには黒くて円い結晶が入っていた。
「なんだよ……それ。」
それから言いようのない悪寒を感じて声が震える。しかし、それから目を離すことができなかった。
「これはですね、あなた様が気にしていた3人組が倒した特別なユーン、我々は「呪印持ち」と言っているんですがね、それを意図的に発生させられるものになります。」
それを聞いて、大きく息を飲む。そんな危険物をこっちに見せるなと冷静な部分が思う反面、「あの三人組が倒したやつを目の前に呼び出せる」ということに意識が向いてしまう。
「それに、この場にはありませんが、強力な武器も用意しています。取り扱い注意の代物ではありますが、あなたなら使いこなせるはずです。」
ニコニコとした表情のまま、男はセールスでもするように手を広げながら伝えてくる。
「……何が欲しいんだ?金か?親父とのコンタクトか?」
俺がそう聞くと、そいつはにやりと笑った気がした。
「いえいえ、そんな者は今回は不要でございます。」
笑みを深めながら奴は胸ポケットから名詞のようなものを取り出す。
「我々「超越者の集い」はあなた様に期待しているのです。」
その名詞を手渡されて反射的に内容を読み込む。
「これは先行投資のようなものでして。」
そこには超越者の集い取締役「桐谷 和夫」と書かれていた。
「ついでにテスターをしていただければ、こちらとしても内定を進めやすいと考え、今回お声かけさせていただきました。」
桐谷はそう言って手を差し出した。富田は、数秒固まったが、がっしりとその手を取った。
その瞳はギラギラと欲望の炎が燃え上がっていた。




