第1話:少し変わった、でも普通の日常
本日2話目です。
神話回帰から3年、私清水晶は特段それまでと変わらない日常を送っていた。
当時中学2年生だったころはそれなりに興奮した。もしかしたら私も主人公のようになれるかもしれない。
でも、そんなうまい話はなく、最初は本当に何も起こらずに1年が進んだ。
ダンジョンには一部の自衛隊しか専門的に入らず、一般人には対した情報が入ってくることはなかった。
ユーンと呼ばれるモンスターがいることや、不可思議なアイテム、ゲームのような宝箱が存在すること。
そんな話ばかりが出て、具体的内容はほとんど出てこない。
しかし、1年がたった時、大きな事故が起こった。日本の4か所でスタンピードが発生したのだ。北海道、沖縄、四国の地域で起こった。理由としては北海道が広すぎてダンジョンを見つけられなかった、沖縄では米軍とのダンジョンを巡った交渉で放置され、四国では何とダンジョンを隠していた若者グループがいたのである。
結果それらでスタンピードが起こり多くの被害者が出た。それだけではない。他の多くのダンジョンでもスタンピードの兆候が出ていたのだ。
当時は大変だった。スーパーからは商品が買い占められて消え、ありとあらゆる商品が高騰した。政府は不要不急の外出を控えるようにとしか言わなかったし、メディアでは毎回自称専門家たちがどうすればいいかを話し合っていた。
そして、どう頑張っても自衛隊だけではダンジョンの間引きは手が回らない。それは誰もが口をそろえていうことだった。
だからと言って外国は頼れない。日本でこそ3か所で収まり、そのスタンピードも1週間程度で解消されたが、外国ではもっと甚大な被害が出ていた。特に中国やその周辺国の被害は甚大であり、実質かの国は分裂状態である。
誰も本気で考えていなかったのだ。ダンジョンの中のユーンが外に出て誰かを襲うなんて。
そして、そんな世界情勢を見て日本の政府は断行した。ダンジョンの間引きを民間に任せるシステム。通称「冒険者」という職業を。
しかし、そんな世界情勢も私やその周辺からすれば他人事だった。
冒険者システムが立ち上がった当たりで高校に進学し、冒険者だ、ロマンだと騒いでいる男子を横目に勉強にまい進する日々。
しいて関わったことといえば、一度、市役所で属性検査と呼ばれる検査を受けることになった。
ダンジョン内でその人物が多く保有している魔法の属性を判別できる魔道具が出土し、それの簡易量産化に成功したために始まった精度らしかった。
そんなニュースを見ていたら私の家にもメールでこれに参加するようにという通知が届き、両親とともに面倒だと肩を落とした。
そして、やってきた市役所での検査の日。特別に用意された待合室は多くの人でにぎわっており、特に私と同年代の人たちはどんな属性になるかで盛り上がっていた。私はその話について行けず、こっそり離れて趣味の読書で時間をつぶしていた。
そして、あと少しで私の家族の番だと言うと気、前方で大きなどよめきが聞こえた。中には黄色い歓声も聞こえて、市役所職員の「おめでとうございます。」という声も聞こえてきた。
家族と顔を見合わせていたら、こっちにまで話が伝わってくる。どうやら三つの属性を持った人がいたらしい。
それが珍しいのだろうかと思っていると、隣りの女子が興奮した声で教えてくれた。
「何言ってるの!?基本訓練してない人の属性は無いの!で、そうじゃなくても自然と持っているのは一つだけ!だからね!三つ持ってるのはすごい事なの。」
後々調べたら、一般人が自然と属性を持っている割合は100人に一人、その中で2属性以上を持っている人の確率は一気に落ちて10万人に一人。三つに至っては5000万人に一人というものすごい割合だそうだ。あくまで日本人の統計で具体的にはまだわからないらしいが。
そして、そんなものすごい豪運の人の名前も聞こえてきた。富田という名前らしい。
…クラスメイトにそんな奴がいた気がする。入学直後はだらしない顔して良く話しかけられて正直、気持ち悪かったのを覚えている。
まさかと思いつつ、今度は私の番になった。
検査室とプレートの張られた扉を開いて室内に入る。
そこには横長の机があり、奥には女性職員が座っていた。すこし奥にはパソコンを操作している職員がいて、きっと記録を取っているのだろう。
そして、机の上には奇妙なものがあった。
それは、分かりやすく言えば手のひらサイズのガラス玉だった。透明な玉が布の上に置かれ、その布を収めるように金属製の箱で囲われている。
「では、一人ずつ、この玉に手を置いてください。」
笑顔の職員に言われ、私たちは顔を見合わせた。父親が恐る恐ると言いった様子で前に出てガラス玉に手を触れる。
すると、それはうっすらと虹色に輝いた。それは幻想的だったが、弱弱しい光だった。
「お、これは何属性になるんだ?」
ちょっと期待した様子で父親が聞いている。ここに来るときも若干テンションが高かったので、きっと夢でも見ているのだろう。
私と母親が冷やかな視線を送っていると、職員ははきはきと言う。
「無属性ですね。ありがとうございます。では次は奥様、手を置いてもらえませんか?」
がっくりと肩を落とすだめな父親と入れ替わるように母親が前に出て手を置く。
すると、それはさっきと同じような虹色だったが、その中にかなりの割合で白い光が混ざっていた。職員が目を見張る。
それを見て、母親は不安そうな顔をする。
「おめでとうございます。光属性です。珍しいですよ。」
そう言われて母親はまんざらでもない表情を浮かべ、父親は地団太を踏んで悔しがっている。余りにもみっともなかったので私は父親の頭をグーで叩くと母親と入れ替わるように前に出た。
若干緊張してきた。私にだって期待する気持ちもある。父親ほどではないが、私にも特別な力があればいいのにと夢想したことは何度かある。
震える手でガラス玉に触れる。すると、その玉は不可思議な光を見せた。先ほどの薄い虹色はなく、白と黒だけで構成された光を放つようになった。
それらは半々ほどで互いを食いあうように揺らめいている。それは、中国の太極図にも見えた。
「え?また??」
呆然としていると、すっとんきょうな声が前から聞こえてきた。顔を上げれば、女性職員が目を見開いて驚愕もあらわにガラス玉を見つめている。後ろの職員も驚いているらしく立ち上がっていた。
「あ、あのー……。」
私がそう声をかけると、二人はハッとして居住まいを正すとこちらを見つめてきた。
「はい、これはとても強い光と闇の属性の適性を持っている証拠です。とてもすごい事なんですよ!」
そう興奮気味にいう職員に私ははぁと気の抜けた返事しかできない。
そう言われたところでどのぐらいすごいかは当時はよくわからなかったし、さっき3属性ある人もいたから大したことないんじゃないかという気持ちが強かった。
しかし、私の特異性はこれだけではなかった。現時点ではそれは誰も知る由がなかったが。




