第18話:ごくありふれたEランクダンジョン攻略 ー 1 ー
今日も今日とてダンジョンに潜る。
今日潜るのは家から電車とバスを乗り継いで1時間半と言ったところに発生したEランクダンジョン。事前に推定攻略時間が5時間と言われていたので、しっかりと準備を整えて向かい始める。
「そういえばさ。」
火野さんが大きなリュックを背負いながらつぶやく。
「こういうダンジョンってどうやって見つけてんだろうな?あとランク。」
「あんたねぇ……。」
白雪さんが呆れたように言う。私も軽い頭痛を感じた気がしてこめかみを抑えた。
「ちゃんと講習でも言われましたし、最近ニュースでもよくやってるじゃないですか。」
「へ?まじ……?っあいた!?」
火野さんの背後に迫っていた白雪さんが頭を拳で思いっきり殴った。
「どうやったらこの頭直るかしら。叩けばいいのかしら。」
「っ……。たたいてカラいうんじゃねぇ!」
「あら、何か文句でも?」
「い、いえ、申し訳ないのであります!!」
拳をゴキゴキ鳴らしながらいう白雪さんに、火野さんが直立不動で謝った小柄な白雪さんだが、その時だけはすさまじい気迫があって、がっしりした体格の火野さんよりも大きく見えた。
「あのねー。最近は魔力を感知できるセンサーが出来てて、急ピッチで日本全土に配備されてるの。」
私もそれに続ける。
「それでですね。それが確認出来たら「ダンジョン調査員」という業者がダンジョンの具体的な位置を探すんです。見つけたら底の穴により感度を上げた魔力センサーで魔力濃度を、音波や電磁波である程度の構造体の大きさを確認するんです。」
「ん?じゃあ道とか全部わかるんじゃね?」
「それがですね。ある程度時間が立っちゃうと構造が変わったり、拡張してたりで当てにならないそうです。で、そのダンジョン調査員の人たちはEランクダンジョンなら攻略できる強さはあるらしいんですけど、専門的な機材とかを使うためか専業化が難しい層で。」
そこで私たちの出番ということです。と締めくくる。火野さんはバカ面さらしてほへーと感心したようにこっちを見ていた。
その後ろで再び白雪さんの眉がつりあがっているが、これ以上立ち止まるのもよろしくない。
「さて、そろそろ行きましょうか。」
私がそう言って歩き出すと二人も慌てて追いかけてきた。
そこは森の奥、崖の途中にある亀裂だった。それが今回のダンジョンの入り口らしい。そこはロープで封鎖され、看板には「Eランクダンジョン発生中、立ち入らないでください。」と大きな赤い字で書かれていた。
「ここで間違いないですね。管理番号が一致しました。」
「よっしゃ。行こうぜ。」
「はいはい。」
私たちは周囲に人陰がないことを確認してから、着替えなどの準備を整え ー もちろん火野さんのいないところで着替えました ー ダンジョンにつながる亀裂へ入った。
そこはジメジメとした暗い洞窟だった。スライムやゴブリンのダンジョンと違い、光源はなく真っ暗だ。
「うわ、前が見えねぇ。」
火野さんを先頭に入ったから、真っ先にその被害にあったのは彼だった。私はこの情報を聞いていたので、腰のポーチから手持ちライトを付けて周囲を照らす。
「聞いていた通りの洞窟型で光源のないタイプですね。うーん、ちょっとやってみたいことあるんですが大丈夫ですか?」
私がそう聞くと、二人はうなずいてくれる。
だから、魔法の準備を始めた。体内の魔力を練り上げ、手のひらの上に固めて出す。そして、その性質を定義していく。
「これは手のひらに沿って動くもの、周囲を照らし、闇を払うもの。
イメージはLEDランプ、動力は魔。」
なんか二人が微妙な表情を浮かべている気がするが無視だ無視。私だって試行錯誤中なのだ。イメージを口に出すとものすごくやりやすいからこういう詠唱になっているのだ。
私が内心愚痴りながら詠唱を完成させる。
「点灯しろ『ライト』」
そう言うと、手のひらの上に大きめの光球が浮かんで周囲を明るく照らした。背後の外への入り口も今ならしっかり見える。
「おぉ!!」
「へー。」
二人が驚いたように見てくるので、私は小さく胸を張ってドヤーという表情を浮かべた。
「なんとか試行錯誤してできた私の魔法ですね。攻撃力ほぼないですけど。イメージ元がLEDライトですし。」
そう言って手を振る。それにそって光球も追従してきた。
「でも、それじゃあ清水さんが動けないんじゃ……。」
はっとした表情で白雪さんがそう言うが、そこも抜かりはない。
「大丈夫です。ーーー光よ、かの者の背中を追尾せよ『カンテラ』。」
そう詠唱して光球を火野さんの背中に触れさせると、火野さんの背後50㎝程度の位置をフヨフヨと追尾し始めた。
「おぉ、すげー。便利だな。」「あぁ……こういう便利系の魔法忘れてた……。攻撃とか束縛バッカ造っちゃった……。」
三人でそうはしゃぐ。しかし、騒ぎすぎたらしい。
「きゅー!」「キュキュー」
そういって、洞窟の奥から数体の鳴き声と足音が急速に近づいてくる。
「やべ。戦闘準備ぃ!」
火野さんが背中に吊り下げていたあのダンジョンで手に入れた黒鋼のロングソードをひきぬく。
私も慌てて腰に挿していた警棒をひきぬいて火野さんの斜め後方に飛び退る。ついでに左手に付けたバックラーも一緒に武器の表面に結晶を纏わせる。
白雪さんも大きく2歩後ろに下がると、雪の結晶が刻印された白い杖をかまえた。
「きゅあーー!!」
そう言って飛びかかってきたのは大きな、体長30㎝ほどもあるネズミだった。
E_ラット。Eランクのダンジョンによく出てくるネズミ型のユーンだ。
ちなみにだが、名前の前のEは「Eランクの強さ」という意味で、単純な強さの指標である。
で、そんな巨大ネズミが3体。先頭の一体が大きな前歯のついた口を開いて火野さんへ飛びかかってくる。火野さんはチラリと後方の白雪さんを見てからその場にどっしりとかまえて、ロングソードを振りかぶった。
「せい!」
そして、勢いよく振り下ろす。うまく切り裂けたらしく、巨大ネズミの頭蓋に食い込んで即死させていた。
「ギュアー!」
仲間が死んだことも気にせず残りの2体のネズミが左右から火野さんへ迫る。
そこで私は駆け出し、飛び上がるために踏ん張っているネズミの頭を警棒で打ち据えた。不意打ちをくらったネズミは目を回して気絶してしまう。
もう一体は大丈夫かと見れば
「氷よ、弾丸と化して敵を撃て『アイスボール』」
そう唱えた白雪さんの持つ杖の先端から氷の球が放たれ、ネズミの胴体を吹き飛ばしていた。
私は、背中側のベルトにさしていたナイフをひきぬいて気絶したネズミの首をかき切る。それらのネズミたちはほぼ同時に光の粒子と化して、そこには大きな前歯と黒い石だけが残った。
「よし、これなら大丈夫そうだな。」
火野さんの意見に私たちはうなずき、ドロップアイテムを回収して奥へと隊列を組んで歩き始めた。




