第12話:勝利報酬
タトゥーゴブリンが倒れ、数十秒がたった。私たちは誰も動けなかった。
しかし、タトゥーゴブリンが光の粒子に変わり、完全に消滅するとようやく全員がその場に倒れこんだ。
危ない戦いだった。一撃でもくらっていたら死んでいたかもしれない。
そんな恐怖がようやく実感できてきて、私の全身に震えが走った。
そして、誰も何も発さず、数分が立ったところで火野さんが立ち上がった。
「二人とも……無事かぁ……?」
「こっちは……問題ないです……。」
私は力なく答えた。まだ数分立ち上がれるとは思えない。
「わたしも……。」
白雪さんは突っ伏した状態で答えた。実際その数秒後に立ち上がっていた。
「勝ったな……。」
火野さんがそう言って周囲を見回して、何かを見つけたらしい。「おぉ!!」という驚愕の声が上がった。
何だと思ってわたしも倒れこんだまま火野さんの視線を追ってタトゥーゴブリンの死んだ場所を見る。
そこには銅で補強された木箱が三つ置いてあった。それには鍵穴もなく、すぐにでも開けそうな状態になっている。
「た、宝箱!?」
白雪さんが驚いた声で叫ぶ。宝箱とはダンジョンに出現するアイテムの入った箱のことだ。
ネットではボスを倒したら出てくるとか、ダンジョンの隅に隠すように置いてあったとか書かれていたが、どれもソース不足で信憑性はなかった。
講習でも、最低ランクのEランクダンジョンでは出てくる確率は限りなくゼロに近いという話だったはずだ。
それがボスのドロップアイテムとして、しかも三つ置いてある。
「「「……」」」
私たちは顔を見合わせると、それらに近づいて行く。わたしも立ち上がって宝箱の正面に立った。
「「「……」」」
私たちは無言で顔を見合わせ、
「「「いっせいのぉ、せ!!」」」
そう言って三人がばらばらの宝箱を指さした。
火野さんは中央、白雪さんは左、私は右だった。
「よっしゃ!」
「よし。」
「…!!」
三者三様に喜ぶ。こういう時の取り決めはしていなかったが、どうやらどれをもらうかでもめることはなさそうでよかった。
まあ、中身をトレードする可能性はあるので無意味な事ではあるのだが、こういうのはノリである。
「早速開けてみようぜ!」
「そうね。」
「ですね。」
「じゃあさ、同時に開けてみようぜ。」
私たちはテンション高く話し合うと、それぞれの宝箱の前に立った。
「「「1、2の……3」」!」
そう言って一斉に蓋を開ける。
「うおおおおおおおおお!!」
まず叫んだのは火野さん。中に入っていたものを掲げて台はしゃぎしている。
それは黒い金属でできた剣だった。幅広のロングソードで、とても頑丈そうだ。
「これは…きれい……。」
白雪さんはうっとりした表情で、中に入っていた物をためつすがめつ眺めている。
それは、白い雪の結晶が掘られた純白のロッドだった。いかにも魔法使いが使いそうなイメージがわくような棒だった。
「……?」
私の宝箱の中身は透明な宝玉だった。ガラス……いや、水晶だろうか。あるいは私の知らない鉱物かもしれない。
ただ、触れてみたら私のアビリティ:水晶製魔機構の心臓の「結晶操作」と名付けた能力がこれが水晶だと告げてくる。
なかなかに大きな水晶だ。直径は10㎝。数は三つ。そしてなによりゆがみも傷もなく、とても高額で売れるかもしれない。
いやまあ、売るつもりはないが。だってアビリティの練習としても、色々試してみたいし。
私たちは一通り驚き、はしゃぎ、自慢しあってから、ふと冷静になった。
「……やっちゃった。」
「やらかした……。」
「……。」
私は頭を抱えてうなだれ、火野さんは四つん這いになって落ち込み、白雪さんは体育座りで顔を覆っている。
そう、やらかした。これが試験である事を覚えていたのに、緊急時に逃げなかった。単純に判断力がなくリスク管理ができないと思われるだけならまだいいが…。
「これ、バレたらやばいよなぁ。」
火野さんの言う通りで、報告をしなかったのが何よりまずかった。
30分、三人でさんざん悩み、相談を重ね、結局ごまかすことに決めた。
私たちはコアを取ることなく、いかにも慌てて逃げたというように全力で駆け出して、ダンジョンの入り口にいたギルドの役員に叫んだ。
「すみません。緊急事態です!角を曲がったところに変なユーンが!!」
そう、唐突に遭遇したとごまかす作戦である。
その後、大騒動になり、複数の職員に取り囲まれた時に説明したのは以下のような感じである。
・そろそろコアのあるボス部屋というあたりで全身に刺青のような物を入れたゴブリンと遭遇
・逃げる間もなく交戦し、ボス部屋に追い込まれる
・なぜかボスのいなかったボス部屋で殺しあった後、死に物狂いで殺した
・怪我をしていないのは、当たったら即死しそうだったのでとにかく避けた
・倒したら宝箱が出てきたから中身を見ずに取ってすぐに走って逃げてきた
という感じである。コアを取らなかったのはそこまで気が回らなかったというアピールである。
全面的に信じてくれているわけではなさそうだったが、説明に矛盾がなかったおかげか、特段何か言われることはなかった。
そして私たちは救急搬送されて、その日は検査入院することになったのである。




