第11話:特異個体:タトゥーゴブリン
異様なゴブリンリーダーを見る少し前に時間は戻る。
ほとんど姿を表さないゴブリンを警戒しながら、私はボス部屋と思わしき部屋への通路をのぞき込もうとしていた。
他のパーティメンバーは一つ曲がった角の所で待機してもらっている。ここまで2、3回しか戦っていないため消耗はほとんどない。
そして、のぞき込んだ結果あの異様なゴブリンリーダーのような物を見つけたのである。
私は素早く角まで戻ると、二人に相談した。
「……どうする?」
火野が私たちの顔を見て困ったように言う。私は正直、かなり揺れていた。
「……正直なこと言っていいですか?」
「どうぞ。」
「倒したら評価高くなりそう。」
「「わかる。」」
私たちは大きくうなずいた。
正直、今のところBランクに早くなる方法はない。というかBランクそのものの人数が少なすぎてどうすればなれるかも判然としていないのだ。
まだ始まって2年の業界なのだ。上げられる評価はリスクをある程度背負ってでも上げるに越したことはない。
「正直、私、ちょっと早めにランク上げたいんですよね。事情は今度言いますけど。」
私がそう言うと、二人はちょっと聞きたそうな雰囲気を出しつつも、聞いてくることはなかった。
「俺は……正直家のお金がちょっと辛くてな。学費も込みで早めに稼げるようになりたい。」
火野さんがそう言う。
「私は今のところそう言うのないけど…。確かに評価は欲しいわね。あと、今回逃すと半月後まで待たされちゃうし。」
白雪さんはそう言ったが、隣りの火野さんを意識しているのは丸わかりだった。
そして、三人の意見は一致した。
「じゃあ、作戦を立てましょう。あれ絶対強い物。」
「そうね。できるだけ勝算は高く、かつ命大事に。」
「ガンガン行こうぜ!」
「「このあほ」」
次の瞬間には、頭を抑える火野の姿があった。
私は極力気配を消して、ボス部屋の入り口に待機していた。反対側の壁には火野さんが同じような恰好で息をひそめている。
私は部屋でうろうろしている異様なゴブリンリーダー……言いにくいな。タトゥーゴブリンとでも言おう。タトゥーゴブリンの様子をうかがう。
タトゥーゴブリンは部屋内をうろうろと歩き回り、定期的に絶叫を上げている。それは威嚇行動なのか、それともただ興奮しているだけか……。
結局はどうでもいい事だ。あいつは私たちが狩るのだから。
私はタトゥーゴブリンが後ろを振り向くパターンを見極めると、火野さんに向かって手を向けると、三本指を立てた。
火野さんと後方の白雪さんがうなずいたので、一本ずつ指を折っていく。
3…2…1…
私が手を握り、親指を上げた瞬間、火野さんがタトゥーゴブリンへ向かって一気に走り出した。
「……っ!」
無言でタトゥーゴブリンに接近すると、あと一歩で攻撃範囲に入ると言った瞬間、木刀が一気に燃え上がった。
「!?…ぐぎゃ!?」
そして、その魔力の動きで気が付いたのか、タトゥーゴブリンが慌てて振り返る。しかし、遅かった。
その燃え上がった木刀はタトゥーゴブリンの肩口に叩き込まれ、タトゥーゴブリンは吹き飛ばされていった。
ボス部屋の壁にぶつかり、数秒張り付いて地面に落ちた。
肩で息をする火野さんはこれで倒せたと思ったのか、動きを止めている。しかし、私はこの程度なわけがないと思い、火野さんに叫ぶ。
「注意をそらさないで!!」
私が叫んだ瞬間、タトゥーゴブリンは両腕で体を持ち上げると、素早く近くに落ちていた何かを握りこむと、すさまじい勢いで火野さんへ突進していく。
「へ?っうわっ!?」
火野さんは慌てて横っ飛びしてその場を避けた。次の瞬間、先ほどまでいた場所を槍が貫通した。
どうやらタトゥーゴブリンが握ったのは、他のゴブリンが落とした槍だったようだ。
「ちっ…。」
私は小さく舌打ちをすると、タトゥーゴブリンと火野さんの戦いを横目に、手早く、タトゥーゴブリンの視界に入らないように気を付けながら部屋に入る。
そして、私が特定の場所にたどり着いた瞬間、白雪さんが通路から飛び出した。
しかし、早すぎる。もっと時間をかけて狙いを定める予定だったのに。
「恒一!!」
そう叫ぶと、白雪さんはクロスボウを放った。その矢には霜が降りていることだろう。
極限まで属性まといで魔力を注ぎ続けて冷却した矢だ。しかし、それはタトゥーゴブリンの肩をかすめた。
「gggrrrrr」
タトゥーゴブリンはバッと振り向くと、白雪さんへ向かい走り出す。火野さんが慌てて注意を自分へ向けようと切りかかるが、追いつけない。このままでは白雪さんに接触してしまう。
そこで私はタトゥーゴブリンの側面から襲い掛かった。
音を立てずに静かにしていれば、案外気づかれなかったな、という発見を得ながら、結晶を纏った警棒をしならせながら横にスイングした。
そして、それはタトゥーゴブリンの膝に勢いよく激突し、その足を砕いた。
また、ここにちょっとした工夫もしている。何も意識せずに属性纏いをするとガラスのようになめらかな表面になるのだが、意識して、時間をかけて纏わせることで、表面を鑢のようにザラザラした状態にできるのだ。
これは訓練中に発見していた。準備に時間がかかるので実践では使うことはないと思っていたのだが……。
そして、それは想像通りの効果を発揮し、砕いた足の皮膚や肉の表面をズタズタに削り取って激しい痛みを与えたようだ。
「gggrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!????」
タトゥーゴブリンが絶叫する。私はそのままゴブリンにタックルを仕掛け、事前に借りていた火野さんのラウンドシールドでタトゥーゴブリンを押し倒した。そして、盾の上からのしかかって動きを封じる。
「火野さん!!」
私がどうにか抑え混みながら叫ぶと
「おうっ!」
という頼もしい声が帰ってきて、どうにか立ち上がろうとするタトゥーゴブリンの頭に炎の塊が叩き込まれた。
「ggr!?」
そう叫んでさらに強く暴れ出す。私が吹き飛ばされそうになった時、背中に重みを感じた。どうやらチラリと振り返ると切羽詰まった表情の白雪さんがのしかかってくる。
どうやら、抑え込むのを手伝おうとしているらしい。
そのおかげでどうにか持ち直すことができた。そして、火野さんは燃え上がったままの木刀をタトゥーゴブリンの顔に押し付け続けている。
「g…gr……」
だんだんと顔に炎が燃え移り、タトゥーゴブリンの動きが鈍くなっていく。
数分後には、動かなくなったタトゥーゴブリンの姿があった。




