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黒猫は恋敵と出会う

 谷田正俊(たにだまさとし)は、その後警察に捕まり、月夜は十夜の遺体が埋められている場所を聞き出せて掘り返した。元々、頭の部分もあったらしいが、佐久間が追跡方ロボットで谷田が十夜を埋めているところを見張っていたらしく、人間コレクターの神谷健蔵(かみやけんぞう)の手に渡ったらしい。遺体を掘り起こすなど、罰当たりもいいところだ。月夜は、ようやく十夜の身体の全てを見つけ出すことができて、改めて墓石に納めることが出来た。

「兄さん。見つけ出すのに、手間がかかってしまってごめんね。」

 そして、過去に戻るが、宇佐美将臣(うさみまさおみ)の臨終にも立ち会っていた。宇佐美は、谷田に後からコルト・パイソンの銃撃を三発受けて、前かがみに倒れ込んだらしい。左の背中と右の腹わた。そして、左足の太ももに受けて、医師からの懸命の治療が施されたが、ついに意識が戻らなかった。十夜は、宇佐美の事を谷田に相談していたらしい。そして、強制的に関係を持たされていたことを教えていた。さすがに、怪盗家業をしていることは打ち明けておらず、皮肉にも谷田の銃撃に倒れて、命を落としたという結末だ。

 月夜は、ある場所へある物を届けに行っていた。郊外の隠れ屋敷だ。そこには、得物を鑑定する鑑定士であるヒナコがいる。ヒナコは、見た目こそ小学生ぐらいだが、得物を鑑定する能力はとても優れている。月夜は、いつもここに持ってきて、報酬を得ているのだ。

「これの鑑定、頼むよ。」

 月夜は、黒いダイアモンドが散りばめてあった得物を渡す。

「いつになく、無愛想ね。まあ、いいわ。これが、例のいわく付きのブラックエンドね。」

 ヒナコは、虫眼鏡を取り出し、得物の良し悪しを見る。

「もう、大変だったんだぜ。これを手に入れるのに。主を失ったロボットたちが、一斉に銃撃してきたんだから!」

「そりゃあ災難だったわね。」

「オマケに、左肩が本調子じゃなくて、参ったよ。」

「宇佐美さんの命令だったんだもの。仕方ないじゃない。」

 ヒナコは、簡単に言ってくれる。

「その宇佐美も、明け方亡くなったよ。結局、俺は解放されたわけだけど、最後の命令ぐらい聞いておいたんだよ。なんと言っても、十夜兄さんが奪えなかったお宝だからね。」

「そういった意味では、更に競売で高値がつきそうね!」

 ヒナコの言い方を聞いて、月夜は顔を覗く。

「ってことは、そんなに高くないのか!?」

「そうじゃないわ。宝石として、ある程度の高値はつくわ。だから、お手柄だったわね。」

 ヒナコは、ウインクしてみせる。それを見て、月夜は肩の荷を下ろす。

「脅かすなよぉ〜!スカくらったのかと思ったぜ。」

「皆の給料分は、しっかりと払えるわよ。それにしても、あんた大胆な事に宇佐美さんの財産を使ったわね!」

「んあ?まあ、ね。」

 宇佐美の財産は、それは多く手に入った。だから、自分の好きなように使わせてもらおうと、あることに使った。それは、一条探偵事務所の改築だ。一条も、始めは戸惑っていたが、いつ崩れてもおかしくない建物だったため、了承した。ついでに、月夜の部屋まで作った。完成まで、あと一週間と言ったところだ。

「本当に、真新しくなったものだね。」

「僕たちの住処ですからね。良いものにしないと!」

 月夜の腕の中には、チャチャがいた。もちろん、チャチャの寝床とキャットタワーの設置はバッチリだ。

            ※

 ついに、新しい一条探偵事務所が出来上がった。その清潔感と広いスペースに、わぁ〜っと声がもれる。

「これは…。見事だなぁ!」

「これで、心置きなく仕事ができますね!」

 チャチャを放すと、早速キャットタワーによじ登り、はしゃいで爪とぎをする。そんな中、一人の来訪者が来た。

「あの〜。ここは、一条探偵事務所でお間違いないでしょうか?」

 そこには、髪の長い眼鏡をかけた美人の女の人が居た。

「ええ、そうですが。ご依頼ですか?」

 一条は、客だと思い尋ねる。

「あ、いいえ。その、こちらで雇っていただけないかと思いまして…。」

 一条と月夜は、顔を合わせる。

「すみませんが、求人は出していませんが?」

「分かっています。ですが、怪盗事件で引っ張りだこになっている一条先生のお手伝いが出来ると思います!どうか、雇ってください!」

 深々と頭を下げる女性を見て、一条は頭をかく。

「分かった。なら、三カ月見習いとして雇おう。」

「あ、ありがとうございます!」

 女性は、笑顔になった。

「それで、君の名前は?どんな事ができるの?」

「私の名前は、菖蒲市香(あやめいちか)と言います。歳は、23歳。一般事務ができます。前の仕事でも、デスクワークをしていました。」

 それを聞いて、一条はふ〜ん、と顎に手を当てる。

「分かった。とりあえず、パソコンはこちらで用意するから、頼むよ。」

「はい、よろしくお願いいたします!」

 菖蒲は、また深々と頭を下げたあと、チラリと月夜の方を見る。月夜は、ん?と首を傾げる。

「それじゃあ、まず最初に…。この山になった書類をまとめてくれるかな?」

 一条は、これまでに扱ってきた書類の山々を見せた。この山を見れば、大抵の人間は断るだろう。だが、菖蒲は違った。

「はい。お任せください!」

 そう言うと、テキパキと書類を持っては、パソコンに入力していき、少しの暇をも惜しんで働き始めた。その的確さに、一条と月夜は呆然とする。そして、なんと一週間で全てのデータを整理してパソコンにまとめてしまったのだった。

「先生、できました!どうぞ、ご覧になってください。」

 一条と月夜は、パソコン画面を見る。一条は、まったく使えないので、月夜がマウスを動かす。

「…こりゃ、驚いた。今までの依頼が、全てデータベースになってまとまってますよ!これなら、いつの依頼書も、直ぐに閲覧できます!」

「はあ〜。本当に、便利になった世の中だねぇ。」

 一条は、目を丸くする。

「ちなみに、電子書籍以外は、棚に順番にしまっておきました。なので、パソコンが使えない先生でも、いつでも見られると思います。」

 菖蒲は、分厚いファイルを、年代事に並べて見やすくしていた。あのゴミの山はどこにやら。事務所は、整理整頓された場所になっていた。

「文句の付け所がないね。」

「ですね。」

 一条は、自分のデスクに腰掛け、一服する。それを見て、菖蒲が動く。

「ただいま、コーヒーをお入れしますね。」

「あ、ああ。ありがとう。」

 月夜は、チャチャを抱いてソファーに座っている。

「どうぞ。」

 菖蒲は、一条の前にコーヒーを置いた。

「ああ。ありがとうね。」

『俺の分は!?』

 月夜は、内心イラッとしていた。菖蒲は、一条には挨拶をしたり、声をかけたりするのに、月夜のことはまったく眼中にない風を装っていた。それは、一週間たって濃厚になっていた。あきらかに、月夜の事を無視しているのだ。

『嫌な女〜!なんだ、この態度!?俺の方が先輩だぞ!…て、あれ?俺、居なくてもよくねぇ!?』

 月夜は、内心焦った。菖蒲が来てから、事務所がゴミの山になる事がなくなった。それどころか、更に綺麗になった。一条も、菖蒲を頼るようになっていた。事務所に、電話が鳴る。菖蒲が、それをとる。

「はい。こちら、一条探偵事務所です。はい、お待ちください。先生、轟警部から電話です。」

「ああ。こっちに回して。」

 一条は、自分のデスクの電話に手を出し、内線を押す。

「お世話になってます、轟さん。例の事件ですか?」

 月夜は、ああ、と合点がつく。そう言えば、予告状を出していた事を忘れていた。昼間は、一条と共に現場を下見する予定だったのだ。

「では、そちらに向かいます。月夜くん、出かけるよ。」

「あ、はい!」

 月夜は、探偵助手だと言う事を忘れていた。一条と仕事が出来るのは、何も事務所の中だけではない。かえって、現場に一緒に行けるほうが役に立つ。菖蒲が、こちらを見ていたので、月夜は、ニヤッと笑って見せる。菖蒲は、目を丸くしていた。

            ※

 ビルの屋上で、怪盗シルバーは座っていた。

「月夜。なんか、今日は上機嫌だな。」

「まあね。探偵事務所に、新しい助手の女が入ったんだけど、これに関しては立ち入る事が出来ないからな。ちょっと、優越感。」

 月夜の言葉に、フューは呆れる。

「悠長なこと言ってる場合か?」

「そうだね。」

 怪盗シルバーは、背後に気配を感じて立ち上がる。

「ジャストだね、探偵さん。」

「そのようだ。君は、いつも寸分違わず得物のある建物が見渡せる場所にいるね。高みの見物かな?」

 シルバーは、ニヤリと笑う。

「今夜は、どちらが勝つかなぁ?」

 一条は、煙草をつける。

「君には、毎回驚かされているよ。私の理解を上回っているからね。いつも、対応してくる。」

「音を上げるの?僕を捕まえるんじゃなかったの?」

「必ず…!」

 一条は、ジッとシルバーを見る。シルバーは、背中から下に落ちながら、一条に投げキッスする。

「待っているよ。」

 ビルの下には、警察がわんさかといた。そして、シルバーを押さえつけようとする。だが、シルバーはアクロバティックに警察をなぎ倒していき、足早に得物の方へ向かう。

「クソッ!ネットだ!!」

 ヨロヨロになりながら、警察の一人が銃型のネットを、シルバーに向かって撃つ。だが、シルバーはなんなく避ける。毎回、本当にイタチごっこだ。今夜も、どうやらシルバーの勝ちのようだった。

「おのれ、もう少しのところで!」

 轟の所に、一条が行く。

「惜しかったですね。」

「ええ。次こそは、必ず…!」

 シルバーは、笑いながらその場を立ち去った。メモを残していく。"女神の加護"確かに頂戴した。怪盗シルバー。手際の良さは、まだまだ警察は追いつけないようだった。だが、一条は面白がっていた。毎回、とても刺激があって、少しも飽きない。この高揚感は、一条にしか分からないだろう。






 

 次の日。月夜は、事務所のソファーでチャチャと戯れていた。そこへ、菖蒲がコーヒーを入れたカップを思い切りテーブルに置く。

「なっ、なんだ?」

「言っておきますけど、私のほうが先生のお役に立てるっていうところ、見せつけてあげますから!」

 それを聞いて、月夜は口を片方上げる。

「それはどうかな?やれるものなら、やってみろよ!」

 二人は、バチバチ火花を散らす。

「え…?何、二人とも。どしたの?」

 とうの一条は、まったく意を介さない。月夜には、恋敵ができたのだった。

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