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幕間2 アレック

いつものように起きた。

静かだ。

この時間の家は空っぽだ。母は朝が早い。

居間へ行くと、新しいリュックが置いてあった。

母からのメモ。

「ポルテルさんが、学校をしっかり頑張りなさいって」

ポルテルさんにお礼のメッセージを送らなきゃいけない。

母の上司だ。

母はいつも、そういうことにはちゃんとお礼を言いなさいと言う。

この三年間、新学期が始まるたびに、彼は必ず何かを贈ってくれる。

でも、昔からそうだったわけじゃない。

いっぱいになった冷蔵庫を見る。

そして、アビが生きていたころ、子どものころの冷蔵庫を思い出す。

少ないもの。

たくさんの工夫。

あのころ、僕の奨学金は選択肢ではなかった。

家族の生活費の一部だった。

祖母は行政の魔法使いだった。

多くの人なら二人分にも足りないお金で、三人を食べさせていた。

祖父が建ててくれたこの家に感謝するしかない。

今は、まったく違う。

時間をかけて、母は少しずつ家を仕上げていった。

昔はむき出しのレンガだったものが、今では芸術と色になっている。

昔は、すべてが赤かった。

そして、僕と祖母だけで世界に立ち向かっていた。

そのころ家にあったものといえば、タマヨのリトグラフだけだった。

祖母は、それをレストランで女中頭として働いていたとき、給料代わりにもらったのだと話していた。

どうやら、そこの女主人はタマヨの友人だったらしい。

アビはそれをとても大切にしていた。

いい料理人だったことへのご褒美だと言っていた。

卵、唐辛子、トマト、玉ねぎを取り出す。

不思議だ。

玉ねぎがこんなに大きかった記憶はない。

この朝食は、アビに捧げる。

まず玉ねぎを細かく刻む。

柔らかく、少したるんだ皮膚の祖母の手が、僕の手を導いてくれたことを覚えている。

今日の僕の手は、もう導かれなくてもやり方を知っている。

フライパンを熱し、玉ねぎを入れる。

「本当においしくしたいなら、時間をかけなきゃだめだよ」

アビの口癖だった。

トマトと唐辛子を加える。

玉ねぎとトマトと唐辛子が炒まる匂いがする。

喉に小さな刺激が届いた。

「この唐辛子、ずいぶんお仕置きしてくるね」

アビならそう言っただろう。

火を強める。

辛さが、ほとんど耐えられないくらいになる。

それから、溶いた卵を流し入れる。

同じじゃない。

コンロのそばで食べる。

朝食を分け合う相手はいない。

僕が朝ごはんを食べているあいだ、アビが編み物をしていた姿を思い出す。

その笑顔。

「よく食べたね、アレック」

アビが死んでから、もう九年になる。

「今日もとてもハンサムよ」

学校へ連れて行く前、彼女はよくそう言ってくれた。

今では、両親と話す時間もほとんどない。

この前、脇のところが破れたシャツを着ていた。

母は気づきもしなかった。

祖母なら、そんなことは起きなかった。

学校へ行く。

僕の初日。

メキシコ国立自治大学付属第六高等学校「アントニオ・カソ」。

ほかの高校の友人たちが呼ぶところの、フレサ・セイス。

お上品な六高だ。

どうやら、いちばん小さくて、いちばん入るのが難しい高校らしい。

選択肢があったわけじゃない。

道中、緊張していた。

アビがここにいたら、入り口まで一緒に来てくれただろう。

手を握ってくれただろう。

「人こそ本当の宝物だよ」

そう言ってくれただろう。

本当に彼女にそこまで連れてこさせたかどうかはわからない。

ただ、ここにいてほしかった。

何ブロックか歩く。

来る前にGoogleマップで確認しておいた。

くだらないことでデータ通信量を使いたくなかった。

角を曲がる。

何も見えない。

食べ物の屋台と、どこかへ向かって歩いていく人たちだけ。

黄色い柵。

中に入ると、大学の大きな紋章が目に入った。

「わが民族を通して精神は語る」

校章は、高校独自のものではなく、UNAMのものだった。

高校用の紋章が見られると思っていたのに。

最初の建物の下をくぐり、最初の広場へ向かう。

そして、僕の好きな色が現れる。

赤。

巻き毛。

美しい顔。

母なら絵画にたとえただろう顔。

ボッティチェリのヴィーナスを思い出す。

母は僕に絵の写真を見せてくれた。

その絵は、特に美しかった。

母は父のおかげで美術史を学んだ。

そういう瞬間だけは、母と一緒にいられる。

彼女が写真を指さし、絵について話してくれる。

それも、誰とも分かち合えないものだった。

その少女が、僕の近くを通り過ぎる。

ふいに、彼女は僕のTシャツをじっと見つめた。

「私もレメディオス・バロ、好き」

僕は彼女を見つめ、それから自分のTシャツを見る。

「生まれたい場所で勝手に生まれた、もう一人のメキシコ人だね」

何も処理できないまま、そう言った。

彼女は笑った。

その笑顔は美しかった。

気づく人は多くない。

でも彼女は気づいた。

しかも、芸術を愛している。

彼女はそのまま行ってしまい、僕は教室を探しながら歩き出した。

見つからない。

何をしているのかわかっていそうな顔の誰かを見つけた。

声をかける。

彼も同じくらい迷っていた。

名前はフアン。

歩きながら、僕たちは漫画の話を始めた。

友達になった。

僕はまだ、赤のことを考えている。

もう一度、あの蜂蜜色の瞳を見たい。


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