幕間4 猫
今日は。
ヌロクの様子がずいぶんおかしい。
まず。
定刻に吾輩へ食事を供するという義務を。
忘れた。
仕方なく。
吾輩のほうから脚へ体を擦りつけ。
思い出させてやらなければならなかった。
それでも。
すぐには理解しなかった。
まったく。
最近の者は。
吾輩への敬意というものを知らない。
吾輩が。
わざわざその場にいる栄誉を与えてやっているというのに。
食事を忘れるとは。
今日は。
ヌロクがひどく緊張している。
だからといって。
吾輩に失礼を働いてよい理由にはならない。
とはいえ。
事実ではある。
部屋を行ったり来たり。
あちこちに物を置き忘れている。
ひどい混乱だ。
猫でない者にしても。
ひどすぎる。
祖母が話してくれた。
五十年前。
混沌の種の裁判を取り仕切った日の様子と。
そっくりだ。
今のところ。
すでに三回着替えている。
鏡を見る。
そして。
同じ一言を。
何度も。
何度も繰り返す。
「あなたは自由な意思で決めていますか?」
真面目な顔でも言った。
笑顔でも試した。
そのたびに。
首を横へ振り。
また部屋を歩き回る。
最初の三回は。
もちろん。
吾輩も見てやった。
もう飽きた。
だが。
聞こえてくるものは仕方がない。
「あなたは自由な意思で決めていますか?」
ほう。
今のは悪くない。
吾輩は。
彼を見る。
「今の、よろしかったでしょうか?」
しかるべき敬意をもって。
吾輩へ尋ねてくる。
よろしい。
吾輩の美的判断が。
この上なく優れていることくらい。
理解しているようだ。
「ニャー」
答えてやる。
当然。
猫でない者の言葉など。
学ぶほど吾輩は落ちぶれていない。
言葉ばかり多く。
ほとんど何も表現できない。
ヌロクは。
たいそう嬉しそうにした。
当然だ。
吾輩ほどの神から。
何かをうまくできた直後に。
完璧な「ニャー」を授かる機会など。
そうそうあるものではない。
ヌロクは。
光沢のある靴を履いた。
昨日。
ずっと磨いていたものだ。
そして。
大切にしまっている法衣を着る。
襟には。
青。
吾輩への感謝として。
大好物のウェットフードを。
少しだけ皿へ出した。
「ニャー」
もっと入れろ。
そう伝える。
「応援してくださり、ありがとうございます。最高行政官の結婚を執り行う機会など、そう何度もあるものではありませんから」
予想どおり。
ナクには。
吾輩の言葉が通じない。
仕方ない。
圧力を一段階上げるとする。
脚へ。
体を擦りつける。
すると。
ようやく理解し。
もう少し食事を足した。
「なるほど。私のお祝いをしたいのですね」
お前の祝い?
本当に。
この者たちは面白い。
吾輩たちは。
世話をさせてやる。
撫でさせてやる。
さらには。
崇拝する栄誉まで与えてやっている。
それなのに。
いまだに。
吾輩たちが何かを。
「彼らのために」していると思っている。
吾輩は。
上機嫌で食事を続けた。
玄関の扉が閉まる音がする。
妙だ。
ヌロクは。
窓を閉めるのを忘れていた。
ようやく。
吾輩一人の。
静かな時間だ。




