第11話 コバルトブルー
ユルにはわかっていた。
ミシェルがアレックを見つけるのは、時間の問題だ。
だから。
計画を実行することにした。
捜索が始まるまでに、できるだけ多くの時間が必要だった。
運がよければ、ミシェルは魔法を使わずにアレックを探し続ける。
まず。
アレックを宮殿の中で、可能なかぎり見つからない場所へ隠した。
それから持ち出せるものをかき集め。
宮殿を出た。
人々はすぐに、彼らに名前をつけた。
「コバルト」。
青系統の制服を着た者が多く。
その指揮官も、コバルト行政官だったからだ。
ユルは、自分の手にある黒地に金の刺繍が入った手袋を見た。
アレックがなぜこれほどこの手袋に執着するのか。
いまだに理解できない。
何度も。
手袋に話しかけているアレックを見たことがある。
ユルには、ごく普通の手袋にしか見えなかった。
しかも。
かなり違法そうな。
だが、アレックにとって大切なものなのは知っていた。
そして。
こういうことを決めるのは自分だ。
なら。
みんなには、アレックがこれを使うことを我慢してもらうしかない。
「奥様。通常巡回隊が報告を終えて戻りました。特殊部隊の巡回隊がこちらへ向かっています」
鋭い目をした若いナクが、ユルの天幕へ入ってきた。
ユルは地図の描かれた羊皮紙を広げた。
「今どこですか、カルメラ?」
身軽なナクは耳を立て、地図の一点を指した。
「完璧です。保管しておいたごみを持ってきて、ここ。それから、ここに捨ててください」
カルメラはユルを見た。
目を大きく見開く。
「お見事です、奥様。本当にお見事です。オロスも戦術を改善しようとはしているんですが。前回は、部下たちに空を見上げたまま進ませていました」
ユルはその光景を想像して笑った。
「それで、どうなりました?」
「一人がごみの山に落ちまして。その場で全員引き返すことになりました」
「まあ。オロスという人は、本当に努力家ですね」
ユルは素直に褒めた。
「ですが、奥様の鮮やかさには到底かないません。ここにごみを置けば、避けようがありません」
カルメラは五人の行政官へ指示を出し始めた。
ナクが二人。
ブロクが一人。
人間が二人。
そのうち一人は仮面をかぶっていた。
ウルの仮面。
その姿を見ると、彼らを応援する者たちがいた。
公式使用のための仮面ではない。
したがって。
このように身につけても違法ではなかった。
数日前にウルの執務室から持ち出しておいたのは、正解だった。
特に。
それが何なのか知らない者に預けておいたのは。
宮殿にいる者は偽物なのではないか。
そんな噂も、すでに流れ始めている。
虫の奇跡を起こした。
あの偽物。
五人はそれぞれ書式を取り出した。
記入する。
押印済みの書類が半分ほど詰まった箱へ入れる。
それから麻袋を手に取り。
出ていった。
人間の一人だけが残った。
ユルへ近づく。
「うちの親父、お前が行政学校でそのやり方使うの、大嫌いだったな」
ユルは人間を横目で見た。
「何のことかわからないわね、フリアン」
一人のナクがフリアンに近づいた。
手に書式を持っている。
フリアンは中身を見ることすらせず。
その場で押印した。
「行政学校じゃ『法の隙間のユル』って呼んでたんだぞ。昔っから、本当に手段の多い女だったよな」
フリアンは昔から、ユルとどうにかなろうとしていた。
悪い男ではない。
ただ。
どうしても好きにはなれなかった。
ユルは望遠鏡を手に取り。
宮殿の方向を見た。
「どんな馬鹿でも、緊急巡回中の隊がごみを回収できないことくらい知ってる。それに、子どもでも、道にごみが落ちていれば担当当局へ通報しなければならないことくらい知ってる」
望遠鏡を動かしながら続けた。
「第5条第28節では、屋外にごみを放置してはならないと定められてる。社会にとって最大級の危険の一つだから」
今日、望遠鏡で宮殿を見回すのは三度目だった。
そして突然。
見えた。
赤。
混沌の種が、宮殿の中を歩いている。
見るたびに。
胃がねじれる。
裸の姿を想像してしまう。
同時に、顎が強張った。
傷つけたかった。
息が止まった。
アレックが。
その隣を歩いている。
ユルは彼の顔に焦点を合わせた。
笑っていた。
目は、どこか虚ろだった。
乱れた金髪も。
悪くないと思った。
もちろん、コバルトブルーのほうが似合う。
それでも。
あの赤い上着も、よく似合っていた。
緑色の目を見て。
背筋に震えが走った。
私のことを、何か感じているんだろうか。
混沌の種がアレックの腕を取っていた。
小さな胸を、彼の腕へ擦りつけている。
髪をつかんで。
地面を引きずり回したかった。
ユルは訓練マニュアルを取り出した。
怒りの発作への対処プロトコル。
手順どおりに進める。
効かない。
そのとき。
遠くから、声が聞こえ始めた。
『呼吸してください。もうすぐ、彼を操っている糸をあなたが切れるようになります』
あまりにも突然の声だった。
ユルは怒りから引き戻された。
「ユル。最高行政官は混沌に奪われた。もう明らかだろ」
ユルには、まだ信じられなかった。
アレックの顔に。
何かがある。
そんな気がした。
ただの思い込みかもしれない。
「行政学校で、自分が首席になるって信じてたときくらい確信してるの?」
「ズルしたって言いたいところだけど、お前のあだ名は伊達じゃないからな」
フリアンは黙った。
ユルを見ながら、少し体を傾ける。
「まあ、それはともかく。二日後に結婚するって発表されたぞ」
ユルの心臓が跳ねた。
「結婚式はどこ?」
フリアンは書類の束を探った。
「招待状にはカルダックって書いてある。披露宴では包み飯を出すらしい」
それを聞いた瞬間。
ユルは小さく笑い始めた。
金色の光が。
彼女の周囲に浮かび始める。
『ユル! 行かなくては。私を連れて行ってください……』
「誰ですか?」
ユルは声に出した。
隣にいたフリアンが眉をひそめた。
「ユル、お前かなり変だぞ」
『私はカアシュの意識です。あなたは行かなければ……』
声が。
また消えた。
ユルは手袋を見た。
「カルメラを呼んで」
フリアンを見る。
「アレックのところへ行って、この手袋を渡す必要がある」




