第二部 幕間3 ソレ
第二部
幕間3 ソレ
ソレは、いつものように遅く起きた。
嫌々、顔に水をかける。
ここ二年ほど、頭の中はずっと同じ場所をさまよっていた。
自分を評価しないこんな残酷な世界なんて、価値がない。
今日は毎週恒例の歩道点検の日だった。
空色の縁取りが入った制服に着替える。
心の底から、これがコバルトブルーだったらよかったのにと思った。
母親が間違っているはずがない。
幼いころからずっと言われてきたのだ。
お前は偉大な存在になる運命なのだと。
ただ、世界のほうがそれを理解していないらしい。
最初のころは、ソレも懸命に努力した。
だが、誰もその努力を評価しなかった。
ソレは鏡を見た。
空色の縁取りに染みがついている。
少し水をつけてこすってみた。
完全には落ちなかった。
できるだけ目立たないようにした。
そして、忘れた。
そのまま一日を始めた。
行政用の食堂へ出て、栄養パックを食べる。
それから外へ向かった。
遠くに、見覚えのある姿が見えた。
行政学校の同級生、マテスだった。
ソレはすぐに別の方向へ目を向けた。
気づかれないよう避ける。
だが、しばらくすると肩を叩かれた。
「ソレじゃないか。『機械』のソレ」
速さと正確さなんて、何の意味もない。
少なくとも、別のものが評価される世界では。
「やあ、マテス」
ソレは少し震える声で答えた。
「最近どうしてる?」
マテスは笑顔だった。
ソレは黙っていたかった。
「相変わらずだよ。集落行政レベル2」
マテスは憐れむような目で彼を見た。
「お前の才能が無駄になってるな、友よ」
「お前は?」
聞かなくてはならない質問。
そして、その答えを知りたいような、知りたくないような質問。
「まあ、いつもどおりさ。判事になるための研修中。父が死んだら、俺が後を継ぐ」
ソレは片手を背中に回し、拳を強く握った。
「それはよかったな、マテス。でも、もう行かないと」
「もちろん。職務が呼んでるもんな」
ソレは拳を握ったまま、第2通りへ向かって歩き始めた。
今日は、そこから点検を始めることになっていた。




