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第3章 「私が影武者に選ばれた理由」

 公務で来日された愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の護衛と、殿下の御命を狙う紅露共栄軍の掃討。

 それらの二つが、此度の作戦の両軸になってくるんだね。

 要するに護衛と掃討を英訳した「Escort」と「Mopping up」の頭文字を取る形で、「EMプロジェクト」という事だよ。

 これは確かに、秘密裏に進めなければならない作戦だなぁ。

 始皇帝暗殺に失敗した張良が圯上(いじょう)老人から授かった兵書の「三略」にも、「将の謀は密なるを欲す」って書いてあった訳だし。

 そもそも要人警護というのは、敵陣営に手の内を知られたら話にならない訳だからね。

 支局長室への入室前に警備の子達から何時になく厳重な盗聴器チェックを受けたけど、それも道理だよ。

「此度のEMプロジェクトには、我が日本と中華王朝の友好関係がかかっております。それ故に決して失敗は許されませんし、どのファクターが欠けても作戦遂行に齟齬が出てしまうのです…」

 支局長である明王院ユリカ大佐の声色は何時になく重く、その若々しい美貌にもピリッとした緊張感を帯びていたの。

 まあ、それも無理はないだろうな。

 自分の管轄地域に海外の貴人が公務で訪れるのは、名誉であると同時に気が重いだろうし。

 しかも件の貴人が暗殺者に狙われているんだからね。

 それに明王院ユリカ大佐だって、支局長とは言えまだ高三なんだよ。

 小六で早くも前線に出て大鎌のギロチンサイトで沢山の武勲を上げ、「桜色の死神旋風」という二つ名をほしいままにしたユリカ先輩。

 そんなユリカ先輩は沢山の部下や後輩から慕われる人徳から選挙で当選し、現役高校生の若さで支局長に就任された事で広報誌でも話題となった物凄い人なんだけど、それでも海外要人の警護は気が重いんだろうな。

 この時の私は、浅はかにもそんな風に考えていたの。

「中でも吹田千里少佐、貴官は本作戦を成立させる上で最も優先すべき構成要素なのですよ。貴官が不参加を表明されたなら、本作戦は一から立て直さなければならないでしょう…」

「さ…左様で御座いますか、明王院ユリカ大佐?それは光栄であります。」

 同じ堺県立御子柴高校の先輩でもある支局長の口にされた大仰な物言いに少し驚きはしたものの、当時の私はある程度の落ち着きを保ちながら返答する事が出来ていたの。

 敵の工作員をレーザーライフルで仕留める狙撃手としての心構えを説いていらっしゃるのだろう。

 そんな風に、無邪気にも考えていたのだからね。

 だけど、それはあまりにも甘い考えだったんだ。

「吹田千里少佐、本作戦において貴官は愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の影武者を務めて頂きます。殿下の公開処刑を企てる敵に身代わりで拉致されて頂き、その本拠地を突き止めて頂くのです。」

「はあ、成る程…自分は王女殿下の影武者を…えっ、影武者?!」

 今更になって事態の重要性に気付いた私は、余りの事に言葉を失ってしまったんだ。


 影武者作戦の内容自体は、至って分かりやすい物だったの。

 公開されている日程よりも一日早目に帰国して頂いた麗蘭王女殿下の影武者となった私は、公務中に紅露共栄軍に拉致される形で拠点へ潜入するの。

 それで後は友軍を呼び込みながら、敵拠点内でひたすら破壊工作に従事するんだ。

 要するに私はトロイの木馬みたいな役割だね。

 それで敵拠点を突き止める方法に関しては、生体GPS入りの義歯を仕込む形に落ち着いたの。

 特命遊撃士養成コース編入時に予め抜歯しておいた親知らずのスペースが、これで有効活用出来るって寸法だよ。

 王女殿下の影武者なのでレーザーライフルを始めとする特命遊撃士としての装備は持ち込めないけど、これに関しては現地調達でどうにかするしかないね。

 その手の訓練もキチンと受けてはいる訳だし。


 そんな具合に作戦内容はすんなり理解出来た私だけど、どうしても分からない事があったんだ。

「御言葉ではありますが…自分如きに愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の影武者が務まる物でありますか?自分はそもそも日本人でありますし、そうした人材は中華王朝の禁衛軍の方が豊富であると存じ上げるのですが…」

「そのように吹田千里少佐がお考えになるのも、至極当然の話です。それでは吹田千里少佐、こちらを御覧下さい。古来より『百聞は一見にしかず』と申しますからね。」

 端正な細面に上品な微笑を浮かべられた東条湖蘭子上級大佐に促された私は、支局長付きの秘書官に手渡されたタブレットに視線を落としたの。

「これは、私…でも…?」

 タブレットの液晶に表示されていた写真は、確かに私だった。

 正面から写した構図は、遊撃士手帳や運転免許証に貼ってある証明写真だと一目で知れたよ。

 だけど瞳の色だけが違っていたの。

 二つ名の「赤眸の射星」が指し示すように、私の両目は赤色なんだ。

 だけどタブレットの液晶に表示された写真の中の私は、穏やかなダークブラウンの瞳をしていたの。

「それは貴官の写真をCGで加工した物ですよ、吹田千里少佐。それでは画面の案内に従いタップをお願い致します。」

「はっ!承知致しました、東条湖蘭子上級大佐!」

 そうして操作を続けると、今度は愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の写真が表示されたんだ。

 同じ黒髪ツインテールでも、麗蘭第一王女殿下は気品に満ちていて優雅だよね。

 私なんかとは大違いだよ。

 だけど今回に関しては、そんな他人事ではいられなかったんだ。

「んっ…あれ?」

「お気付きになられたようですね、吹田千里少佐。」

 そうして緊張を抑えながらタップしたタブレットの液晶に表示されたのは、私の今後を明確に運命付ける物だったんだ。

 愛新覚羅麗蘭第一王女の御真影と瞳をダークブラウンに加工された私の顔写真とが、左右に仲良く並んでいる。

 それはまるで一卵性双生児のように瓜二つだったの。

 更に二枚の画像がピッタリと重ねられ、様々な部位がスキャンされていくの。

 その結果たるや…

「そ…そんな、『同一人物』だなんて。私が愛新覚羅麗蘭第一王女と!?」

「紛う事なき事実なのですよ、吹田千里少佐。骨格レベルの顔立ちに背格好、そして体型。瞳の色を除けば、貴官は愛新覚羅麗蘭第一王女に瓜二つなのです。」

 何とも複雑そうな微笑を浮かべる支局長を見つめながら、私は本作戦における自分の果たすべき役割の重要性を考えてただただ呆然となってしまったの。

 最も優先すべき構成要素とは、こういう事だったんだね…

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― 新着の感想 ―
そこまでのレヴェルで似てるの!?(;゜Д゜) いやまあ瓜二つだと聞いてはいましたがここまでとは。 カラコンさえすればもう完璧ですねこれは。 というか前世で殿下と双子だったりしたんじゃないのって気も…
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