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第4章 「我が崇高たる義烈の忠義」

 確かに今までにも、飲み会の席や夜勤シフトの休憩時間とかに「千里ちゃんって、愛新覚羅麗蘭第一王女殿下に似てるよね?」って友達に言われた事は何度かあったよ。

 そしてその度に「そんなの時と場合によったら不敬罪だよ!」ってツッコミを入れるのが普段の流れだったの。

 だけどAIを用いた画像認証でピッタリ照合されて同一人物と認識されてしまうと、流石に冗談として笑えないよ。

「左様で御座いましたか、明王院ユリカ大佐。自分が何故に愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の影武者として白羽の矢が立ったのか、全てに合点がいった次第に御座います。」

「御分り頂けましたか、吹田千里少佐。それは何よりで御座います。」

 ほんの微かだけれど、緑色の教導服を御召しになったユリカ先輩の肩が一瞬だけピクッと震えたように感じられたの。

 それは確か、私が「白羽の矢が立った」という一言を口にした直後だったんだ。


 その事に思い至った時、私は気付いてしまったの。

 この支局長室に入室してから一環してユリカ先輩が何時になく重苦しい表情をしているけど、それが何故なのかを。

「明王院ユリカ大佐、僭越(せんえつ)ながら心中御察し申し上げます。しかしながら、それが小職の安否の御気遣いでありましたならば心配御無用であります。この吹田千里少佐、この生命を人類防衛機構の大義の為に捧げる覚悟は出来ている所存でありますれば。」

 こう言った次の瞬間、ユリカ先輩の端正な美貌に様々な表情が瞬時に浮かんでは消えていったの。

 驚愕に不安、そして恐怖と悲しみ。

 それらの表情の理由も、私には痛い程によく分かったよ。

「本当によろしいのですか、吹田千里少佐?貴官は理解しているのですか、此度の『EMプロジェクト』の危険性を…」

「自分は影武者であるが故に、遊撃服やレーザーライフルといった装備類を持たず丸腰同然で拉致されなければなりません。武器弾薬は現地調達。そして友軍と合流するまで、自分は孤立無援で戦い抜く必要に迫られます。通常の作戦行動に比べて戦死の可能性が遥かに高いという事は、重々承知の上であります。」

 確かに危険を伴う任務ではあるけれども、こうして特命遊撃士として軍務に従事している以上は覚悟の上だよ。

 もしも生命が惜しかったなら、私は早々に内勤の事務職に鞍替えしているって。

「しかし影武者の役割は、小職にしか務まらないと御伺い致しました。それならば小職が喜んで拝命致しましょう。友好国の貴人の御命を御救い申し上げ、我々の先人である大日本帝国陸軍女子特務戦隊の手を長らく(わずら)わせた紅露共栄軍を地上から完全に抹殺する。それらの武勲が得られるならば、小職は喜んで生命を捧げて護国の英霊となる所存であります。勿論、生存への努力は決して怠らない所存ではありますが。」

「ああ、吹田千里少佐…貴官は…貴官はそこまで崇高な決意を…」

 そっと私を抱き寄せたユリカ先輩の声は、ひどく震えた涙声になっていたの。

 支局に配属された特命遊撃士の誰よりも、管轄地域と地域住民、そして戦友を大切に思っているユリカ先輩。

 そんなユリカ先輩にとって、部下である私を戦死の可能性が高い危険な作戦に送り出すのがどれだけ辛いかは重々分かっているよ。

 だからこそ私は、そんな優しいユリカ先輩を困らせる訳にはいかないんだ。

 愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の御命や日本と中華王朝の友好関係が守られ、紅露共栄軍という国際社会の脅威が排除出来る。

 私一人の犠牲でそれらが成就するならば、安い物だよ。

「小職の為に涙を流して下さり恐悦至極に御座います、明王院ユリカ大佐。しかしながら、御安心下さい。後梁の武将として名高い王彦章おうげんしょう)曰く、『虎は死して皮を残し、人は死して名を残す』。たとえ小職の肉体が滅びたとしても、小職の魂と武勲は永遠に生き続けるのです。そうで御座いましょう?」

「ええ…その通りで御座います、吹田千里少佐。貴官の献身の意思と忠誠心は、永遠に顕彰されるべき崇高な物なのですから…」

 嗚咽を漏らすユリカ先輩の代わりに応じて下さった東条湖蘭子上級大佐も、涙を堪えきれない御様子だった。

 いや、秘書官を始めとする支局長室内の全員が、私の為に涙を流して下さっていたね。


 それでも目頭をハンカチで押さえながら、この「EMプロジェクト」に愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の影武者として従事する私への手厚い福利厚生が説明されたの。

 まずは人類防衛機構側の対応だね。

 もしも私が作戦中に戦死した場合は、戦没者遺族となった私の家族には充分な恩給が支払われ、私自身も護国の英霊として防人神社で祀られるの。

 堺県防人神社には枚方京花ちゃんの曾祖母である園里香上級大佐も祀られているから、きっと私の事を温かく迎えて下さるだろうね。

 そして中華王朝の側に至っては、私が愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の影武者としての役目を立派に勤め上げた暁には生死に関わらず昭忠祠しょうちゅうしに祀って下さるんだって。

 要するに私の事を、趙雲や紀信のように命懸けで貴人を守った義烈の忠臣として扱って下さるんだ。

 日本と中華王朝の二つの国で顕彰されるならば、たとえ戦死したって何も悔いはないよ。

 この吹田千里の名前が護国の英霊や義烈の忠臣として歴史に名を残し、未来永劫に渡って生き続けるのだからね。

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― 新着の感想 ―
もう、これは泣けます。 千里少佐の覚悟はこっちも敬礼するほどです。 それと昭忠祠の事は知りませんでした。 こんなところがあるんですね……いちいち翻訳しなきゃいけないサイトでしか紹介されてない(;'∀…
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