エピローグ第1章 「新たなる栄達の予兆」
暗殺の危険に晒されていた愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の警護と、国際テロ組織「紅露共栄軍」の完全根絶。
この二大目的を達成させる為の「EMプロジェクト」は見事に成功し、日本と中華王朝の友好と繁栄はより盤石な物となったんだ。
麗蘭王女の影武者を務めた私と、本物の麗蘭王女の護衛及び殲滅作戦の戦闘要員を務めた英里奈ちゃん達三人の同期生は、それぞれ異なる事情で辞退していた特別休暇を改めて取得して大いに英気を養ったの。
まあ特別休暇とは言ったけれどそんなに遠出した訳じゃなくて、和歌山市の友ヶ島要塞にある研修施設を保養目的で使っただけなんだよね。
「しかし、ちさも欲がないよね。友ヶ島要塞なら今年の春に佐官昇級者向けの合宿研修で行ったばかりじゃないか。」
「まぁまぁ…良いでは御座いませんか、マリナさん。私共が合宿研修へ参加した際、当時は尉官だった千里さんは同行出来なかったでしょう。今回こうして千里さんと御一緒出来て、私と致しましては漸く帳尻が合ったような気が致します。」
「おやおや、英里奈ちゃんったら…すっかり千里ちゃんにゾッコンじゃない。この枚方京花、その人誑しにあやかりたい物だよ。」
「もう…そんな風に茶化してくると困っちゃうなぁ、京花ちゃんったら…EMプロジェクトの時もそうだったじゃない。」
こんな具合に、賑やかで和やかな二泊三日を過ごせたって訳だよ。
露天風呂の温泉で疲れを溶かし、地酒と山海の珍味で舌を癒す。
これぞ正しく「命の洗濯」だね。
そうして心身共にリフレッシュして三日振りに支局へ登庁した私は、また一介の少佐階級の特命遊撃士として今まで通りの勤務を行う事になるという心積もりをしていたの。
ところが、案外そうではなかったんだ。
登庁して早々、私は支局長室へ出頭を命じられたんだ。
「えっ…また出頭なのですか、千里さん?」
「みたいだね、英里奈ちゃん。また私、誰かの影武者になるのかな?」
こんな遣り取りで同僚と別れた私は再び支局長室へ出頭したんだけど、支局長室の様子は「EMプロジェクト」の始動時とは随分と違っていたんだ。
あの時は沈鬱さが滲み出ていた支局長のユリカ先輩も普段同様の晴れやかな笑顔を浮かべているし、秘書官の子達も平時と何も変わらないんだもの。
「おめでとう御座います、吹田千里少佐。実は中華王朝の王室から、貴官を忠臣として表彰したいと打診があったのです。」
「本当でありますか、明王院ユリカ大佐!それは実に名誉な事であります。」
この時の私は、感謝状や金一封とかの類で表彰されるのだと思っていたの。
だからこそ、こんな無邪気に笑っていられたんだよね。
ところが今回も、私の予想の斜め上を行く事態が待っていたの。
「影武者として愛新覚羅麗蘭第一王女殿下を命懸けで死守した義烈の忠節さと、紅露共栄軍の首魁を討ち取った類稀なる武勇。それらを総合的に評価して、中華王朝は貴官に巴図魯の称号と双龍宝星勲章を授けるそうで御座います。」
「えっ、巴図魯!?」
それは正しく、青天の霹靂だったよ。
何しろ満州族の言葉で「勇者」を表す巴図魯は、前身である清朝から中華王朝が受け継いだ制度の一つでもあり、とっても名誉ある栄誉称号なのだからね。
確かに清朝の時代には外国人にも巴図魯の称号が与えられたけど、それを本当に授与出来るとは思っても見なかったよ。
「しかしながら、明王院ユリカ大佐…本作戦を達成出来たのは小職一人だけの力では御座いません。敵の首魁を討ち取れたのも崑崙仙軍の葛葉舒さんと京洛牙城衆の深草伊奈利さんのお力添えあっての話ですし、レーザーライフルを始めとする装備類を生駒英里奈少佐達が届けてくれたからこそ、ここまでの武勲を成し遂げられたのです。」
「その謙虚な奥床しさは正しく防人乙女の誇りですよ、吹田千里少佐。しかし今回の『EMプロジェクト』が成立したのも、貴官が影武者の大任を受諾し全うして下さったからこそ。」
聞けば私が名前を列挙した人達にも、功績に見合った感謝状や金一封が贈られるみたい。
それなら変な遠慮なんてせずに、胸を張って堂々と受勲させて頂かなくてはならないね。




