第16章「歴史の闇に消えた暴君の復活」
そんな頼もしい二人とは対照的に、紅露共栄軍の首魁ときたら何とも見苦しかったね。
「ぬぬぬ、小娘めが…よくもこの儂を、董卓の力を得た儂を足蹴に…」
何とか立ち上がったのはいい物の、すっかり足元がふらついているんだから。
「アッハハ、ふざけちゃって!どうせ『自分を董卓だと思い込んでいる異常者』の悪霊でも降ろしちゃったんでしょ?もう手の内は分かっちゃってるんだよ。」
御蔭で私の悪態も普段以上にハイテンションになっちゃったんだ。
「そういうトリックの分かった手品以上に興醒めな物は、この世に存在しないんだからさ。ねえ、お二人もそう思いますよね?」
こうして私はゲラゲラと哄笑を上げながら、二人の霊能者に同意を求めたんだ。
「あ、あれ?どうしたんですか…」
だけど、伊奈利さんも葛葉舒さんもあまり乗ってくれなかったんだよね。
それというのも…
「生憎と申し上げますか、董卓の霊に関しては本当だったようでして…」
「後漢末期に呂布の裏切りで殺された董卓の魂は憎悪に凝り固まり、ああして破壊エネルギーを放出する悪霊と化してしまったのです。」
まさかの本人パターンとは驚いたね。
確かに暴君の董卓なら、未練たらたらの悪霊として現世を彷徨っていても不思議じゃないよ。
「アムール戦争で一度は壊滅してから幾星霜…漸く立て直した我が組織を、よくもここまで蹂躙してくれよったな!こうなれば我が降神拳の全力をもってして、貴様らを葬り去ってくれるわ!」
全く筋の通らない逆恨みだけど、それを指摘してもコイツは聞く耳を持たないだろうね。
目には目を、歯には歯を。
向こうがその気なら、こっちも全力で叩き潰してやるだけだよ。
二度と再び蘇る事が出来ないようにね。
すると奴は、予想外のとんでもない手段に訴えかけてきたんだ。
「刀槍不入、降神附体!うおお、我は苻生!我は張献忠!」
「なっ、何いっ!?」
思わず私は、声を荒らげてしまったよ。
五胡十六国時代に前秦の宮中を恐怖で支配した苻生に、明末清初の四川で大量虐殺を行った張献忠。
どちらも歴史に悪名を残した、危険極まりない暴君じゃない。
既に董卓の魂が憑依している所に更に二人分の暴君の魂を降ろすだなんて、果たしてどうなってしまうのか。
ちょっと洒落にならないよね。
「ぐっ…ああっ!?ああああっ!!」
確かに洒落にならなかったけど、この結果は先方としても不本意だったのかも知れない。
何と敵の首魁はブルブルと震えて絶叫し、遂には白眼を剥いて口から泡を噴いてしまったんだ。
「三人分の暴君を憑依させた為に、生身の人間としての精神が耐えられなかったのでしょう。紅露共栄軍の首魁だった男の魂は、今ここで死に絶えました。」
崑崙仙軍の道士は、果てない野望を追った男の末路を冷静に分析していた。
やっぱり、人間は身の程を弁えないといけないよね。
「成る程…すると、これで紅露共栄軍は壊滅という事に?」
「はい、吹田千里少佐。しかし本当に厄介なのは、これからです。」
嵐山から来た狐憑きの巫女さんが端正な顔を強張らせながら言った言葉の意味は、すぐに分かったよ。
「ヌオオオオッ!」
数人分が入り混じったかのような凄まじい唸り声を上げて起き上がった首魁の男は、しかし未だ虚ろな顔をしたままだった。
まるで目に見えない何者かに、無理矢理に操られているみたいにね。
そしてその「何者か」というのは、すぐに分かっちゃったんだ。
「むうっ、首魁の身体を芯にして紫色のオーラが集まっていく!」
「悪霊と化した暴君のエネルギー体です。彼等は依代を求めているのです。」
二人の霊能者達の言う通りだった。
宙に浮いた首魁の身体は紫色のオーラに包まれて、やがて見えなくなってしまったの。
そしてそこには、全身紫色をした身長五メートル前後の巨人が代わりに仁王立ちしていたんだ。
頭に頂いた冕冠と爛々と輝く両眼は、正しく暴君の化身と呼ぶに相応しいよ。
「ウオオオ!」
すると大地を揺るがすような雄叫びと共に、奴の両眼から破壊光線が迸ったんだ。
「危ないっ!」
急いでバラバラの方向へ散ったから良かったものの、床に空いた大穴を見たら血の気が引いちゃうよね。
全く、理性のないデカブツってのは厄介極まりない相手だよ。
こっちの言葉は分からないし、何をしでかすかも分かんないんだからさ。




