第十三話「開戦」
レナを追いかけ、二人は夜桜の散る道を走る。
その途中、ヤマザキさんは悟一に救援の電話を掛け、栄一はレナの肩を支えながら共に歩いた。
今の今まで初対面、しかも敵同士だったのを、栄一は不思議に思っていた。
「事情は分からないけど、君も大変だったんだな」
と栄一は彼女に言った。
「哀れみの言葉なんか掛けないでよ。私は貴方たちを呪おうとしたし、惨めな気分になるから」
直後、桜の花びらの一枚が彼女の髪の毛の上に降ってきた。英一はその光景を微笑ましく思ったが、何も言わなかった。
「これからどこへ向かうんだい?」
とヤマザキさんが聞く。
「そりゃ、黒幕のところだろう」
と栄一が言ったのだが、レナは乗り気ではないようである。
彼女の身体は小刻みに震え、あからさまに恐怖しているようだ。
「また、引っぱられる」
「その時は俺がまた支えてやるさ」
三人は、悟一の到着を待っていた。先程まで彼らがいた公衆トイレ付近には、また別の人気の無い公園があったので、一行はそこへ歩いて行き、悟一が到着するのを待った。
「いやぁーっ!」
突然のことで、栄一とヤマザキさんは驚いた。レナがある一点を見つめながら、恐怖の眼差しで、恐れおののきはじめたのだった。
「何が起こったのだ!」
とヤマザキさんは言う。
栄一は、彼女が見つめる先に、人が立っているのを発見した。黒いコートのようなものを身にまとっていた。しかし、人ではなかった。
「ヤマザキさん。アイツ……」
「ああ、どうやら間違い無いようだね。ハッキリと分かる。アイツはヤバい。鬼だ」
その黒い人影は鬼だった。見た目こそ普通の男性に見えるが、霊感があれば分かる。ヤツは人などではなく、凶悪な霊力を放っている鬼そのものだった。
「英雄の到着を待っている暇はないようだね」
と、ヤマザキさんは言う。
「レナ。戦えるかい?」
栄一が彼女に問いかけたが、彼女は恐怖に顔を歪めて首を横にふるだけだった。
「貴方たちは亜師さまの恐ろしさを知らないから、戦おうなんていえるのよ」
すると、遠くからでも分かるほどに邪悪な声で、ヤツが言った。
「レナ。見損なったぞ。己の欲の為に、世界を闇に沈めようと共に誓ったではないか」
とても恐ろしい声で、ヤツが言った。
直後に、ヤツは三人のすぐ側まで来ていた。そのあまりの速さに栄一も、ヤマザキさんすら反応できなかったようである。
「亜師さま。どうかお許し下さい」
レナは怯えている。そのあまりの脆弱さに、栄一は彼女を気の毒に思った。
「私は、私は元は、普通の人間だったのです。私にも慈愛があり、そう簡単には人を害せようとは、思わなかったのです。しかし霊感だけはあり、様々な呪術を学ぶうちに、亜師さまとお会いしたのです。師は、私を深く気に入りました。しかし、もう限界なのです!」
彼女は涙ながらに語った。彼女の不幸は、実はヤツが大元の原因だと知って、二人は必ず、亜師という鬼を倒さなくてはならないと決意した。
しかし、その殺気を悟られたのであろうか。
「そのゴミ虫どもが目障りだ。散れ!」
次の瞬間、栄一とヤマザキさんは、遠くまで吹き飛ばされ、公園の壁に激突した。
「物理攻撃が重い」
とヤマザキさんは驚いていた。
「レナ、お前は今までよく働いてくれた。しかし、貴様のような軟弱な女は、要らなくなった」
その声と共にヤツの腕は鋭い刃物へと変形し、突然、彼女に襲い掛かってきた。殺すつもりである。
「まずい、間に合わない!」
二人はそう叫び、彼女の方向に走ったが、あまりの素早さになす術がなかった。
その時だった。




