●●●中編●●●
この作品には 〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。苦手な方はご注意ください。
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どうぞよろしくお願いいたします。
――数日後、アイリは王宮を出て教会へお務めに赴いた。
グランデも城を抜け出し、いつものようにオリバーとして市場で団子を買うと、周辺を散策する。
そこへ早歩きでカイエンが後ろからやってくると、オリバーと一瞬並んで歩きながら小声で話す。
「陛下」
「む、カイエンか」
「先程、教会でのお務めを終えたアイリ様が、庶民の住宅街の方へ向かわれました」
「随分遠回りをして王宮へ戻るのだな。分かった。お前は引き続きアイリに付け」
「ははっ」
カイエンがそのまま早歩きでオリバーを追い越して雑踏の中へ消えていった。
カイエンと別れたオリバーは、カルロス参謀が尋ねていた老夫妻の家へと向かった。
しばらく物陰で老夫妻の家の様子を見ていると、アイリがお供のメイドも連れずにやってきた。
そして、老夫妻の家に入るでもなく、そっと窓から部屋の中を覗き込んでいた。
「ロイド様……あなたと私の間に出来た娘は、あなたのご両親と幸せに暮らしておりますよ。私は陛下のお側仕えとして生きていきます……」
窓越しから、アイリが赤ん坊を撫でるように、手を動かしながら涙を流していた。
(ロイド……。王都警備隊の元師団長、ロイド・グラスの事か? あの子はアイリとロイドの娘なのか? どういう事なんだ……)
「アイリ殿、また会いましたね」
オリバーは、偶然を装ってアイリに声をかけた。
「あ、あら、オリバー殿でしたか。このような所でお会いするなんて驚きましたわ」
アイリが慌てて涙を拭うと、オリバーに笑顔を見せた。
「私の家はこの近くなのですよ」
「まぁ、そうでしたの。では、先を急ぎますので失礼いたします」
アイリは、オリバーから逃げるようにその場を去ろうとした。
「お待ちください。アイリ殿は、この家に用があるのでは?」
「いえ、私には何も……」
「随分と愛おしそうに、あの赤ん坊を見ておられたようですが、もしかしてアイリ殿の娘なのでしょうか?」
「まさか。オリバー殿の勘違いでございますわ。私は、陛下のお側仕えです。娘など……」
「いや、アイリ殿はお側仕えではなく、あの子の母として側にいてやるべきではないでしょうか」
「ですから、私には娘はおりません。ましてやここは庶民の家ですわ。没落したとはいえ、私は貴族の娘。そんなことあり得ませんわ。先を急ぎますので失礼します」
オリバーを振り切って、アイリがその場を走り去り、角を曲がり大通りへ出て行った。
(たしか、ロイド・グラスも下級貴族の出自。ローリー盗賊団の一件で責任を取らされて王都を追放され、両親は庶民になったと聞いている)
オリバーも後を追って走ったが、大通りへ出るとアイリの姿はすでになかった。
「見失ったか……。まぁ、教会帰りの行き先など王宮しかないけどな」
オリバーも大通りを王宮の方へ向かって歩いていった。
「きゃーー!!」
しかし、数歩進んだところでアイリの叫び声が聞こえた。
「こっちか」
オリバーが慌てて叫び声がした路地裏へ走ってゆくと、そこにはアイリが五人の男に捕まっていた。
それは、先日アイリを襲った五人の狼藉者だった。
そして、彼等の後ろには一人の女性が短剣を持って立っている。
「ルーシー様、捕まえましたぜ」
「ふふふ、よくやりましたわ。しっかり押さえておきなさい」
「へい」
ルーシーがアイリの顎を掴んで憎々しそうな顔をする。
「アイリ・ホーネット! あなたさえいなければ! カルロス参謀があなたを見つけなければ! 次の舞踏会で陛下の目に留まるのは、私以外にいなかったのよ」
「ルーシー様が何故ここに!?」
「決まってるじゃない。あなたの顔に傷を付けて舞踏会に出れなくしてやるためよ。没落貴族の分際で陛下の舞踏会に出ようとするから、こんな事になったのよ」
「や、やめて……」
「安心しなさい。命までは取らないから。後は、この男達に弄ばれて卑しい躰になって、王宮から出て行きなさい」
ルーシーが短剣をアイリの頬に当てた。
金属のひやりと冷たい感覚がアイリに恐怖を呼び起こす。
少しでも動けば顔に傷がつく。
蛇に睨まれた蛙のようにアイリは身動き一つできなかった。
「待て! 何をしている!」
慌てて駆けつけたオリバーがルーシーを突き飛ばし、五人の男達からアイリを取り返した。
「誰!?」
ルーシーが地面に尻もちをついた姿でオリバーを見た。
「ルーシー様、あいつですぜ。先日、俺達の邪魔をした奴は」
「へへ、今度はあいつ一人じゃないか。五対一なら余裕だよなぁ」
男達が剣を抜いてオリバーを半円に囲うように散らばって構えた。
オリバーも剣を抜いて五人を牽制するように間合いを取る。
「へぇ、腕にはちょいと自信ありげな構えだな。てめぇ、何もんだ?」
「オリバー・グランド。しがない傭兵だ」
「ふん、傭兵風情が出しゃばるんじゃねぇぜ!」
男達が次々とオリバーに斬りかかってゆくが、オリバーはそれを避けようともせずに剣で弾き返した。
後ろにアイリがいるのでその場を動けないというハンデすら、オリバーにはハンデになっていなかった。
瞬く間に五人を打ちのめして気絶させ、残ったルーシーに剣を向けた。
「ぶ、無礼者! 私はルーシー・ディートリヒ伯爵令嬢ですわ。このような事をしてただで済むと思ってますの?」
「日暮れ前の路地裏で、手下を連れて女一人を襲って何とも思わんのか」
「あの女は、私が何とも思わない女ですわ」
「何だと!?」
「オリバーと申しましたわね。ここまで来れるかしら?」
ルーシーが足早に路地裏から短剣を持ったまま大通りに出た。
「待て!」
引き寄せられるようにオリバーが後を追う。
そして、大通りで剣を構える二人に、通行人が顔を青くして遠巻きに騒めいた。
「何のつもりだ!?」
「ふふ。こういうつもりですわ」
ルーシーが大きく息を吸い込む。
「いやぁぁぁーーー!! 強姦魔ですわ!! 誰か助けて!!!」
「は?」
「奥で伸びている男五人は私が倒しましたわ。早く衛兵をお呼びになって!」
ルーシーが短剣をオリバーに向けて構えて距離を開けてゆく
「て、てめぇ……」
周囲の民衆の目から見れば、完全に美女を襲う暴漢という構図が出来上がっていた。
オリバーは、悔しそうに出てきた路地裏へと引き返し、群衆の前から姿を消した。
そして、路地裏には倒れている五人の男がいるだけで、当然の事ながらアイリの姿はなかった。
「アイリにも逃げられたか……」
オリバーは、とぼとぼと歩いて城へと戻っていった。
☆ ☆
・‥…――☆・‥…――☆・‥…――☆
教会から帰ったアイリは、舞踏会の飾り付けに使う生け花の材料を取るために王宮の庭園にいた。
花を摘んでいると、そこにカルロス参謀がずかずかとやってきた。
「アイリ!」
「カ、カルロス参謀。このような所へお越しになられますとは、一体……」
カルロス参謀は問答無用に、アイリの手にした花を叩き落とした。
「お前は、教会からの帰りにグラス夫妻の所へ行ったのか?」
「も、申し訳ございません。ですが、遠目に見ていただけでございます。決して気付かれるような事はしておりません」
怒りを押し殺すようにして睨むカルロス参謀に、アイリはすがるように謝った。
カルロス参謀が舌打ちをしてアイリの手を振りほどくと、顎を掴んで睨みつけた。
「お前の父、ミッシェル・ホーネット男爵は、家が取り潰しになる覚悟の上で、お前に婿を取らせなかった。それは、お前にはすでに娘がいて、未婚の母となっていたからであろう」
「……はい」
「娘の父親はロイド・グラス。王都にローリー盗賊団の侵入を許し、罷免された王都警備隊の師団長だ。奴が王都を追放された身であるため、男爵は奴を跡取りに迎え入れることができなかった」
「……はい」
「アイリ、今一度言う。お前にはその美貌と教養がある。お前は娘の事を忘れ、陛下の妃になるのだ。そうすれば、お前の娘が祖父母のグラス夫妻と安心して人生を送れるように図らってやる。そういう約束のはずだ」
「……はい」
「分かったら、二度と会いに行くな! よいな!」
カルロス参謀は、アイリを払いのけて庭園を去っていった。
☆――…‥・☆――…‥・☆――…‥・
「と、いうような事が、城へお戻りになられた陛下が、王室顧問のマッケンジー様に説教をされている間にございました」
カイエンが就寝前のグランデに密かに報告を入れた。
「そうか。アイリは余のお側仕えとして王宮に残る以外、生きる道はないということか」
「左様でございます」
「そうであればカルロス参謀にとって、アイリと娘の関係は闇に葬らねばならんはずだ。いずれ、グラス夫妻を始末しようとするだろう」
「陛下のお察し通りでございましょう」
「カイエン、しばらくカルロス参謀の動向を探れ」
「承知いたしました」
カイエンがグランデの寝室を静かに出ようとする。
「待て、カイエン。余が昼間にルーシー達に囲まれた時、何故助けに出てこなかった?」
「は、さすがに強姦魔のご助力は、私には荷が重すぎましたので」
カイエンの顔つきは、『あの程度なら、陛下お一人で十分でございましょう』と言っているようである。
「ちっ、お前なぁ」
カイエンが音も立てずに部屋を出てゆくと、グランデは笑って舌打ちをした。
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