●●●前編●●●
この作品には 〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。苦手な方はご注意ください。
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どうぞよろしくお願いいたします。
「やれやれ、マッケンジーもしつこいな」
城を抜け出し、私服に剣を下げて士族姿に扮したグランデは、城下の市場までやってきた。
そして、いつものように市場を散策する。
「おう、オリバーさん今日も買っていくかい?」
「お、一つ頼む」
(ふむ、オリバーの名も板についてきたな)
グランデは、城下ではオリバー・グランドと名乗っている。
このお気に入りの名を使って、国王グランデと気付かれない達成感に一人ニヤけるのであった。
店主から串団子を一つ買い求めると、市場の外を流れる川の土手に出た。
そして、川を見守るようにそびえ立つ巨木の元に腰を下ろした。
賑やかな市場とは違い、静かで川のせせらぎだけが聞こえ、癒しを与えてくれる。
そこで食べる団子は格別である。
「きゃぁーーーーー!」
しかし、そんな至福の時間を台無しにする女性の悲鳴が聞こえた。
「ちっ、後一個だったのに」
オリバーは、団子を放りだして悲鳴の方に走っていった。
悲鳴の出所では、五人の男が三人の若い女を囲み、剣を見せながらニヤニヤと小汚い笑いを浮かべている。
三人のうち二人は、簡素で動きやすいメイド服を着ている。
そしてもう一人は、光が流れるような長い金髪で、化粧も必要無しと思えるほどの美貌の持ち主である。服装は、装飾を削ぎ落としたようなシンプルなワンピース姿だが、品の良い貴族女性であることが分かる。
「お貴族様よ、綺麗な顔に傷を付けられたくなければ、有り金全部渡してもらおうか」
「無礼者! こちらは陛下のお側仕えのアイリ様だ!」
「あなた達、このような狼藉が許されると思うのですか」
メイド二人が短剣を抜いて、主人のアイリを庇うように前に出た。
「だったら、どうした?」
「アイリ様、お逃げください。ここは私達が」
二人のメイドが男達の相手をするが、思いのほか男達は強い。
一対一でかかりきりになっている。
二人のメイドの間をすり抜けた男三人がアイリに襲い掛かった。
しかし、貴族たるもの、アイリも多少の護身術は持ち合わせている。
くるりとスカートを浮かせるように一回転し、太ももに忍ばせている短剣を抜いて応戦した。
「王都に物取りがいるなんて、治安はどうなっているのかしら」
アイリは、三人の男の剣を弾きながら、その場から逃げるように走って助けを呼びに行こうとした。
しかし、男の一人が振り下ろした剣を短剣で受け止めた時、背後から別の男に足蹴にされて地面に打ち伏せられた。
「きゃっ!!」
「へへっ」
男が笑いながらアイリの顔に剣の刃を向けた。
「何をしている!」
そこに悲鳴を聞いて駆けつけたオリバーが助太刀にやってきた。
そして、剣を抜いてアイリを囲む男の中に割って入った。
「何だ? てめぇ」
「見ての通りなのだが、分からぬか?」
オリバーの剣は男達の剣を防ぐためにだけ使われ、攻撃は殴る蹴るで打ちのめしてゆく。
「ちっ、覚えてやがれ」
男三人は、悪役定型文を発してその場から逃げ去っていった。
そして、メイド達の相手をしていた男二人も三人を追うように退いていった。
同時に、木陰から一人の男が物音ひとつ立てずに現れ、足早にオリバーに近づいてきた。
(カイエン)
(ははっ)
オリバーがその男、カイエンに目配せをすると、カイエンは誰にも気づかれぬよう逃げた男達の後を追っていった。
「危ない所をありがとうございました」
「いや、無事で何よりだ」
オリバーがアイリの手を取って起こそうとして手を伸ばしたところに、メイド二人が割って入って来た。
そして、メイドがアイリの手を取って起こして差し上げる。
「すまない、助太刀感謝する。貴殿、見事な腕っぷしだな。見た所、武官殿のようだが、所属とお名前をお教えいただけないか? 後程、王宮から礼をお渡ししたいのでな」
「いや、礼などいい。私はオリバー・グランド。しがない傭兵で所属はない」
それでは代わりにと、メイドが手持ちの金貨を渡そうとするが、オリバーはそれを拒否した。
「そんな事より、先程の者達は?」
「申し訳ございませんが、余計な詮索はお控えくださいませ」
「私達は先を急ぐので、これで失礼する」
深々と頭を下げてオリバーに礼をするアイリを急かすように、メイド二人がその場を後にした。
「アイリ様、こちらへ」
「アイリ様、さぁ、早く王宮へ戻りましょう」
(ふむ、アイリというのか)
国王のお側仕えは、実際にグランデの側で仕えているわけではない。
お側仕えとなる貴族女性にとって王宮とは、国王の花嫁候補生として暮らす職場兼学校のような場所である。
彼女達は王宮で文芸や淑女の嗜みを学び、王宮の家事全般を仕事として暮らしている。
妃を迎えることに興味がないグランデは、ほとんどの者の顔や名前を知らないでいた。
三人の背中を見送ったオリバーは、三人がやってきた方へ歩いて行った。
その先には民家が立ち並んでいる。
赤ん坊の泣き声や子供の笑う声がする、生活感のあふれる町並みである。
「俺のお側仕えがこんな所に何の用だろう……」
ふと、アイリが庶民の出なのかと頭をよぎったが、カルロス参謀がそのような者を選ぶわけもないことは明らかだった。
オリバーが庶民の住宅街から出ようとした時、カルロス参謀が共も連れずにこちらに歩いてきた。
オリバーは、城を抜け出した自分を捜索しているのかと思って身を隠したが、カルロス参謀の目的はそうではないようだ。
(む、あの家に入っていったぞ。カルロス参謀が何の用なんだ……)
息を殺しながらオリバーが窓から中の様子を見ると、赤ん坊が眠る部屋で家の老夫妻とカルロス参謀が何やら話をしている。
しかし、窓を隔てたオリバーのところまで話し声は聞こえてこない。
カルロス参謀がしばらく老夫妻と笑いながら話した後、老夫妻に金貨の入った巾着袋を渡して去っていった。
(何だ?)
オリバーがもう一度窓から家の中の様子を見ると、老夫妻が何事もなかったかのように赤ん坊の世話をしている。
「陛下」
そこに、先程、狼藉者を追って行ったカイエンがオリバーの元へ戻ってきた。
「む、カイエンか。どうだった」
「お察しの通り、先程の者達はただの狼藉者ではございませんでした。奴等の逃げ帰ったところは、ルーシー様の邸宅でございました」
「ルーシー?」
「ルーシー・ディートリヒ様は、ディートリヒ伯爵家の娘で、陛下のお側仕えでございますぞ」
「そうなのか?」
「陛下、もう少しご自身のお側仕えにご興味をお持ちください」
「カイエン、お前もマッケンジーのような事を言うのか」
カイエンは、やれやれといった顔でオリバーに説明する。
「ルーシー様は、王宮では才色兼備のお側仕えで、陛下のご婚約相手として最有力候補になっております。一方、アイリ様は、カルロス参謀の推挙で最近お側仕えになった文武両道の大変美しいお方でございます」
「なるほど」
「そして、次の陛下主催の舞踏会には、お二人が参列なさります」
「つまり、ルーシーはアイリが邪魔ということか」
「左様でございます」
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