●●●後編●●●
この作品には 〔15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現〕が含まれています。苦手な方はご注意ください。
(この小説は挿絵機能を使用しています。挿絵が苦手な方はお手数ですが挿絵機能をOFFにしてから御覧くださいませ)
どうぞよろしくお願いいたします。
――数日後。
グランデは、カイエンからカルロス参謀に動きがあったという報告を聞き、お忍びで城下を訪れた。
そして、グラス夫妻の家を張り込んだ。
しばらくするとカルロス参謀が五人の男を連れてやってきた。
グランデは、その五人の男を見て目を丸くした。
彼等は、ルーシーの元にいた五人の男達である。
(何故あいつ等がここに)
ルーシーはアイリを襲うほどの敵対関係であることは間違いない。
そのアイリをグランデと婚約させたいカルロス参謀である。
相反する二人に従う五人の男達は、おのずと金で雇われれば誰とでも何でもする輩ということが導き出される。
「いずれアイリの子が母親の存在を知るかもしれん。そうなると面倒だ。ローリー、子供をグラス夫妻ともども始末しておけ」
「承知いたしました」
ローリーがカルロス参謀に一礼した。
そして、鞄から油がしみ込んだボロ布を何枚も取り出し、火をつけて家に投げ入れた。
火は、瞬く間に燃え広がり、中にいた夫妻が気が付いた時にはすでに玄関は火の海だった。
「あぁ、孫が!」
慌てて部屋の中に戻ろうとするが、火の手が激しく身動きが取れないでいた。
「大丈夫だ、こっちへ」
家の中の様子を伺っていたオリバーが助けにやってくると、グラス夫妻の手を取った。
そして、人が通れるほどの大きさの炎の隙間から走って脱出した。
「心配ない。赤ん坊は、私の連れが助け出している」
オリバーは、燃える家の中から孫の身を案じるグラス夫妻を連れて飛び出した。
そこには、五人の男とカルロス参謀がいる。
「家から誰か出てきましたぜ? ……あっ、あいつは、あの時の傭兵!」
「よう、また会ったな。ルーシーの次はカルロスの手下か?」
「俺達は、金をいただければ誰の役にでも立つからな」
「笑わせる。役に立ってないだろう」
「何だと! 俺達ローリー盗賊団を舐めんなよ」
「ローリー盗賊団は王宮騎士団が殲滅したはずだが……。その残党というわけか」
オリバーは剣を抜いた。
「ローリー、何をしている! さっさとやってしまえ!」
カルロス参謀の怒鳴り声が響いた。
「お前は、この者達をローリー盗賊団と知って雇っているのか?」
「それがどうした? 私の功績を上げるためだ」
「功績? 国王に婚約者をあてがうのが功績だと? 笑わせてくれる」
「陛下に妃を迎えさせたとあれば、その功績はいかほどのものか。傭兵ごときに分かるまい」
「カルロス、余の顔をよく見ろ」
「余だ? 何様のつもりだ」
臣下に顔を忘れられた事には少しショックだったようだが、グランデはカルロス参謀に対する怒りは頂点に達していた。
カスロス参謀が眉間にしわを寄せてオリバーを見た。
「へ、陛下!!」
慌ててカルロス参謀がひざまずいて、震えを押さえるように固まった。
それに連鎖するように、ローリー盗賊団もひざまずく。
「余の前で起こしたこの惨状、もはや言い逃れはできぬぞ」
間もなくして、火の手に駆けつけた王都警備隊の手によって、カルロス参謀達は捕縛された。
☆ ☆
後日、国王主催の舞踏会の日。
舞踏会が始まると、競い合うようにお側仕え達が踊りを披露する。
もちろん踊りだけではない。
衣服も自分で調達し、食事も作り、そして会場の飾り付けに至るまで全て自分達で準備する。
それら全てが評価の対象となる。
中でもルーシーの舞は、誰よりも美しいものであった。
「ルーシー、今宵の舞は見事であったぞ」
立食の歓談の中、ルーシーの背中からマッケンジーが声をかけた。
そして、ルーシーの作ったスイーツを美味しそうに一口食べた。
「まぁ、マッケンジー様がお召し上がりになるなんて。ありがとうございます」
「陛下がお会いなさるそうで、お越しになられておる」
「まぁ、嬉しゅう存じます」
ルーシーが深く礼をして、こちらに来るグランデに心躍らせた。
「面を上げよ。余がグランデである」
ルーシーが頭を上げると、そこに立っている男の顔はオリバーだった。
「え? オ、オリバー?」
「しばらくぶりだな。その節は世話になった。強姦魔だ」
グランデがルーシーの耳元で囁くように言った。
「陛下……が、オ、オリ、オリ……」
ルーシーは、アイリの一件を全て知られていると悟ると、それ以上何も考えられなくなり、ガタガタと震えていた。
「あの時の余は、世を忍ぶ仮の姿。余に対する振る舞いは許すので委細口外無用だ」
「か、かしこまりました」
「それで、ルーシーはこの場に相応しい淑女か?」
グランデは、ギッとルーシーを睨んだ。
ルーシーはその場から逃げるように去り、舞踏会場を後にした。
そして、荷物をまとめて王宮を去っていった。
グランデは、ルーシーの事を気に留めることもなくぐるりと一望し、マッケンジーを呼ぶとアイリを指名した。
「おぉ、陛下! ようやくお相手をお決めになられましたか! このマッケンジー、嬉しい限りでございます」
「余は、先に部屋に戻らせてもらう。アイリを部屋に来させよ」
「承知いたしました。いやはや、私も夢を見ているようでございます」
マッケンジーがスキップ足で軽やかにアイリの元へ駆け寄っていった。
そして舞踏会の中、国王の控室にアイリが招き入れられた。
大きなソファにグランデが足を組んで窓を眺めながらワイングラスを片手に座っている。
「よく来てくれた。アイリ」
アイリがグランデの背中を見るなり、平伏して恐る恐る申し上げる。
「陛下、この度はお呼びいただき誠にありがとうございます」
「うむ」
「しかしながら、どうしても申し上げなくてはならない事がございます」
「なんだ」
「申し訳ございません。実は、私には娘がおります。娘の父親は、王都を追放になりました王都警備隊の元師団長、ロイド・グラスでございます」
「そうか」
「我がホーネット家が没落し、娘を抱えて途方に暮れていたところを、カルロス参謀に見出されて陛下のお側仕えになりました」
「そうか」
「お側仕えの条件が、娘を捨て陛下の妃になる事でございました。娘は、王都で暮らすロイド様のご両親の元に預けてくださったのでございます」
「そうか。そろそろ面を上げてくれないか」
グランデがアイリの前に立った。
恐る恐るアイリが頭を上げると、口をポカンと開けた。
「オリバー……様?」
「ん? ははは、そうだな」
グランデは、アイリの側に寄って入口を指差した。
それを合図に、カイエンが静かに眠る赤ん坊を抱いて部屋に入ってきた。
「ならば、アイリはこの子に見覚えがあるのだな?」
「リン!!」
アイリは、カイエンから赤ん坊を渡されると、優しく抱きしめ涙を流した。
「父のミッシェル・ホーネット男爵が没落を選んだか分かるか?」
「私にロイドの子がいては、婿を迎え入れられないからでございましょう」
「少し違うな。アイリ、お前を自由の身にしてやるためであろう。今のお前なら、ロイドの元へ行くこともできるではないか」
「お父様……」
「子は親の愛情を注いで育ててやらねばならん。アイリ、お前がいる場所はここではないはずだ」
「申し訳ございません」
「よいか、この話は二人だけの秘密だ」
しばらくグランデは、赤ん坊の寝姿を見て癒されていた。
翌朝、グランデは、アイリが目に叶わなかったので王宮を去らせるとマッケンジーに告げた。
表向きにはそうだが、グランデの計らいである。
我が子を抱いたアイリは、家を焼かれたグラス夫妻とともにロイドの元へ向かって旅立った。
「陛下、アイリ殿をお気に召さなかったのは仕方ございませんが、何も王宮を去らせなくとも。しかも、時を同じくして、ルーシー殿も何故か去られてしまった……」
「自分に相応しい場所がある者を引き留めてはならん」
「それは何でございますか?」
「いや、何でもない」
「それだけではございませんぞ。カルロス参謀がご自宅で自害なされたのですぞ! 数多くのお側仕えを見出してくれた者でしたのに……。何があったのでしょう」
「さてな」
マッケンジーの背中が落胆のあまりすすけている。
グランデは、うなだれるマッケンジーをよそに、今日もマッケンジーの隙を見てそっとその場から抜け出し、城下の市場へと向かった。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
評価や感想をいただけると執筆の糧や励みになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。




