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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第74話 気にしなくていい

夫が帰ってきたのは、


いつもより遅い時間だった。


「ただいま」


「おかえり」


私はキッチンから顔を出す。


「ご飯、温める?」


「お願い」


夫が上着を脱ぎながら、


テーブルの上を見る。


そこには、


昨日の箱が置いてあった。


「まだ見てたの?」


私は少し迷ってから頷いた。


「うん」


「何か見つかった?」


「特に何も」


そう答えてから、


私は少し考える。


「ただ、気になるものがあって」


夫が椅子を引く。


「何?」


私は箱から手帳を取り出した。


「これ」


開いたページを見せる。


夫はしばらく黙って、


書かれている文字を見た。


『忘れないこと』


「これ、私が書いたんだと思う」


「そうだな」


「何のことか分からない」


夫は手帳から目を離した。


「仕事のことじゃない?」


「かもしれない」


「じゃあ、それでいいんじゃないか」


「でも……」


私は指先でその文字をなぞる。


「こんなこと書くって、何かあったのかなって」


夫はすぐには答えなかった。


やがて、


手帳を閉じる。


「昔のことだろ」


「うん」


「無理に思い出さなくてもいいよ」


その言い方が少し気になった。


私は顔を上げる。


「どうして?」


「どうしてって?」


「何か知ってる?」


夫の表情が一瞬止まった。


けれど、


すぐに首を振る。


「知らない」


「本当に?」


「本当」


そう言って、


夫は立ち上がった。


「ご飯、温めるんだろ?」


「うん」


夫はキッチンへ向かう。


私は手帳を閉じた。


その背中を見ながら、


さっきの返事を思い返す。


知らない。


そう言った。


でも、


ほんの少しだけ。


言葉に詰まったように見えた。


「ねえ」


夫が振り返る。


「何?」


「……何でもない」


私は手帳を箱へ戻した。


「早く食べよう」


「うん」


夫はそれ以上聞かなかった。


二人で夕食を始める。


テレビの音が流れている。


いつもの夜だった。


けれど、


私は何度もさっきの手帳の文字を思い出していた。

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