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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第70話 聞いてみたかった

懇親会も終わりに近づき、


少しずつ帰る人が増え始めていた。


「そろそろ行こうか」


彼が声を掛ける。


「うん」


会場を出ると、


ホテルのロビーはさっきより静かだった。


エレベーターを待つ間、


二人とも何となく黙っていた。


「今日は楽しかった?」


先に口を開いたのは彼だった。


私は笑って頷く。


「うん。思っていたよりずっと」


「緊張しなかった?」


「最初は少しだけ」


そう答えると、


彼は安心したように笑った。


ホテルを出ると、


夜風が思ったより涼しかった。


駅まで並んで歩く。


「さっきの人」


彼がぽつりと言った。


私は彼を見る。


「昔、お世話になったって言ってた人」


「ああ」


私は少し考えてから首を振った。


「やっぱり思い出せない」


「そうなんだ」


彼はそれ以上聞かなかった。


しばらく歩いて、


信号で足を止める。


赤信号を見つめたまま、


彼が静かに言った。


「仕事、好きだった?」


思いがけない質問だった。


私は少し驚く。


「急にどうしたの?」


「何となく」


照れ隠しのように笑う。


「今日見ていて、気になっただけ」


私は少し考える。


「好きだったよ」


自然と答えが出た。


「忙しかったけどね」


「そうなんだ」


信号が青に変わる。


また歩き始める。


「辞めたこと、後悔した?」


今度は少しだけ間を置いて聞いてきた。


私はすぐには答えられなかった。


後悔。


そう言われると、


少し違う気がした。


「後悔じゃないかな」


ゆっくり言葉を探す。


「宇菜が生まれて、一緒に過ごせた時間は大切だったから」


彼は黙って聞いている。


「でもね」


私は少し笑う。


「もう一度働きたいって思ったことは、何回もあったよ」


彼は足を止めなかった。


ただ、


その言葉を静かに受け止めているようだった。


駅の明かりが見えてくる。


「……知らなかった」


小さくつぶやく声が聞こえた。


私は隣を見る。


彼は少し照れくさそうに笑う。


「ちゃんと聞いたこと、なかったから」


私は思わず笑ってしまう。


「私も話したこと、なかったしね」


そう言って二人で笑う。


今まで知らなかったことを、


少しずつ知っていく。


そんな帰り道だった。

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