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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第69話 思い出しました

食事もひと段落し、


会場のあちこちで小さな輪ができ始めていた。


彼は部長に呼ばれ、


少し離れた場所で話をしている。


「すぐ戻る」


そう言い残して、


人の輪へ入っていった。


私はグラスを手に、


会場をぼんやり眺める。


その時だった。


「……失礼ですが」


後ろから声がした。


振り向くと、


一人の男性が立っていた。


さっき、


何度か目が合った人だった。


「突然すみません」


少し申し訳なさそうに笑っている。


私は軽く頭を下げた。


「はい」


男性は少し言いにくそうに口を開く。


「以前……営業のお仕事をされていましたか?」


私は少し驚いた。


「はい」


そう答えると、


男性は小さく息をついた。


「やっぱり」


でも、


私は思い出せない。


男性もその表情に気付いたらしい。


「覚えていませんよね」


申し訳なさそうに笑う。


私は正直に頷いた。


「すみません」


「いえ」


男性は首を振った。


「直接一緒に仕事をしたことは、ほとんどないんです」


私は少し安心した。


だから思い出せないのか。


「昔、一度だけ合同研修でご一緒して」


男性は懐かしそうに笑う。


「あの時のことを思い出していました」


私は記憶をたどる。


合同研修。


何度か参加したことはある。


でも、


誰と話したのかまでは覚えていない。


「その時、


困っていた私に声を掛けてくださったんです」


私は思わず首をかしげる。


そんなことがあっただろうか。


男性は笑った。


「ほんの少し話しただけです」


「でも、今でも覚えています」


私は返事に困った。


自分では特別なことをした記憶がない。


その時だった。


「何の話ですか?」


彼が戻ってきた。


私たちは同時に振り向く。


男性は少し照れたように笑う。


「昔、一度だけ奥様にお世話になったことがありまして」


彼は驚いたように私を見る。


私は苦笑した。


「私は全然覚えてないんだけど」


男性は笑いながら頷いた。


「そうだと思いました」


「でも私は、


ずっと覚えていたんです」


彼は何も言わなかった。


ただ、


私を見る目が、


少しだけ変わった気がした。

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