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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第68話 少しずつ

乾杯の挨拶が終わると、


会場の空気が一気に和らいだ。


あちこちで笑い声が聞こえ始める。


「何か食べる?」


彼が聞く。


「うん」


二人で料理が並ぶテーブルへ向かった。


思っていたより種類が多い。


「すごいね」


私がそう言うと、


彼は笑った。


「毎年こんな感じ」


私は小さなお皿を手に取り、


少しずつ料理をのせていく。


その間にも、


彼は何度か社員に声を掛けられていた。


立ち止まって話をしたり、


呼び止められて笑ったり。


私は少し離れたところで待つ。


「すみません」


声を掛けられて振り向く。


若い女性社員だった。


「お料理、お取りしましょうか?」


「ありがとうございます。でも大丈夫です」


私が笑うと、


女性も安心したように笑った。


「初めてお会いしました」


「はい」


「今日は来てくださってありがとうございます」


私は少し照れくさくなる。


「こちらこそ、お邪魔しています」


女性は彼の方へ目を向けた。


ちょうど後輩らしい男性と話をしている。


「いつもあんな感じなんですよ」


私は彼を見る。


「忙しそうですね」


そう言うと、


女性は笑った。


「何かあると、みんな自然と集まっちゃうんです」


私はもう一度彼の方を見る。


家では仕事の話をほとんどしない。


だから、


こんな姿を見るのは初めてだった。


「少し意外でした?」


女性が聞く。


私は笑って頷く。


「はい、少しだけ」


「私も入社した頃はそうでした」


女性も笑う。


「ちょっと話しかけづらそうに見えるんですけど」


そこで一度言葉を切る。


「話してみると全然違うんです」


私は思わず笑ってしまった。


何となく分かる気がした。


その時だった。


少し離れた場所にいた一人の男性が、


こちらを見た。


一瞬だけ目が合う。


男性は何か考えるように眉を寄せた。


でもすぐに別の社員に呼ばれ、


視線はそれた。


私は特に気にすることもなく、


彼のところへ戻る。


「待たせた」


彼は申し訳なさそうに笑った。


「全然」


私は皿を差し出す。


「これ、おいしかったよ」


「じゃあ後でもらおう」


そう言って笑う。


その後ろで、


さっきの男性がもう一度こちらを見ていた。


今度は、


思い出しかけたような顔をしていた。

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