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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第65話 初めての場所

夕食を食べ終えたあとだった。


夫は仕事用のバッグから、


一枚の紙を取り出した。


「これ」


私は食器を運びながら、


ちらりと見る。


「何?」


「席」


私は足を止めた。


「席?」


夫は紙を広げる。


ホテルの会場図だった。


丸いテーブルがいくつも並び、


それぞれに名前が書かれている。


「ここ」


夫が指差した。


「俺」


その隣には、


私の名字が書かれていた。


私は思わず笑う。


「ちゃんとあるんだ」


「当たり前だろ」


夫も笑う。


私は紙を眺める。


知らない名前ばかりだった。


「この人は?」


私は一番近くの名前を指した。


「部長」


「こっちは?」


「営業の後輩」


夫は一人ずつ説明してくれる。


話を聞いているうちに、


少しだけ顔が浮かぶような気がした。


「みんな家族連れてくるの?」


「半分くらいかな」


私は頷く。


少し安心した。


夫が紙をたたみながら言う。


「そんなに気負わなくていいよ」


私は苦笑した。


「それは行ってみないと分からない」


夫は笑う。


「そうか」


少し間が空いた。


私は何気なく聞く。


「私のこと、何て紹介するの?」


夫はきょとんとした顔をした。


「何てって?」


「いや……」


自分でも何を聞いているのか分からなかった。


夫は少し考えてから、


当たり前のように答えた。


「妻」


私は思わず笑った。


「それだけ?」


「それだけ」


夫は不思議そうな顔をする。


「他にある?」


私は首を振った。


「ないけど」


夫は紙をバッグへ戻した。


「みんな普通に話すだけだよ」


「緊張しなくていい」


私は返事をしなかった。


緊張していないわけじゃない。


でも、


少しだけ想像できるようになった。


ホテルの会場。


知らない人たち。


その中にいる夫。


そして、


その隣に座る私。


「そうだ」


夫が立ち上がる。


「集合、少し早めだから寝坊するなよ」


私は思わず笑う。


「子どもじゃないんだから」


「一応」


そう言って夫も笑った。

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