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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第64話 似合うと思う

休日だった。


私は朝からクローゼットの前に立っていた。


扉を開けたまま、


腕を組む。


服がない。


正確にはある。


あるけれど、


こういう場所に着て行く服が分からない。


私は小さくため息をついた。


後ろから声がする。


「何してる?」


振り返ると、


夫が眠そうな顔で立っていた。


「起きたの?」


「今」


夫は欠伸をしながら近づいてくる。


そしてクローゼットの中を見た。


「何悩んでんの」


私は少し迷ってから答えた。


「服」


「服?」


「集まりの」


そう言うと、


夫は一瞬黙った。


それから笑う。


「まだ気にしてたのか」


「気にするでしょ普通」


私は少しむっとする。


ホテルって書いてあったのだ。


さすがに普段みたいな格好では行けない。


でも、


張り切りすぎるのも違う気がする。


面倒だった。


夫はクローゼットを眺める。


「あれでいいじゃん」


指を向けたのは、


黒のワンピースだった。


私はすぐ首を振る。


「それは違う」


「何で」


「何か違うの」


夫は全然分かっていない顔をした。


私は服を取り出して鏡の前に立つ。


久しぶりにちゃんと見る気がする。


最近は仕事と家の往復ばかりだった。


服も、


動きやすいものしか選んでいない。


「別に普通じゃない?」


後ろで夫が言う。


私は鏡越しに睨んだ。


「普通が難しいの」


夫は笑う。


「面倒だな」


「誰の会社の集まりだと思ってるの」


そう言うと、


夫は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。


でも次の瞬間、


何でもないみたいに言う。


「でも、それ似合うと思うけど」


私は一瞬動きを止めた。


「……急に何」


「いや」


夫は笑う。


「普通にそう思っただけ」


私は何も返せなかった。


そんなふうに言われたの、


いつぶりだろう。


夫はもう興味をなくしたみたいに、


そのままリビングへ戻っていく。


私は一人で鏡を見る。


黒のワンピース。


確かに変ではない。


でも、


何となく落ち着かなかった。


私は小さく息を吐く。


その時だった。


リビングから夫の声が聞こえる。


「あと靴も見た方がいいかもな」


私は思わず吹き出した。


「何でそんな詳しいの」


すると夫が笑った。


「知らないけど何となく」


私は服をハンガーに戻す。


面倒。


本当に面倒。


そう思うのに、


少しだけ嫌じゃなかった。

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