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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第63話 そういう場所

その日の夜だった。


私は洗い物を終えて、


キッチンの布巾を片付けていた。


リビングでは夫が何かの封筒を見ている。


「何それ」


私が聞くと、


夫は封筒から紙を一枚取り出した。


「ああ、集まりのやつ」


私は手を止める。


「もう来たんだ」


「返事今週までだからな」


夫はそう言いながら、


テーブルの上に紙を置いた。


私は何となく近づく。


ホテルの名前。


開始時間。


会場案内。


その下に小さく、


『ご家族同伴可』と書いてあった。


私はしばらく紙を見る。


今まで何となく聞いていただけだった。


でも、


こうして見ると急に現実感が出る。


「……ちゃんとしたやつなんだ」


思わずそう言うと、


夫が笑った。


「会社の集まりだからな」


私は紙を戻した。


正直、


少し面倒だった。


知らない人ばかりだろうし、


気も遣う。


そもそも、


こういう場所自体あまり好きじゃない。


「別に無理して来なくてもいいけど」


夫が言う。


私はその言い方に少し引っかかった。


「何それ」


「いや」


夫は笑う。


「嫌そうな顔してたから」


図星だった。


私は小さくため息をつく。


「だって疲れそうだし」


「まあ、それは分かる」


夫はあっさり頷いた。


それが少しおかしくて、


私は笑いそうになる。


すると夫が突然言った。


「来るなら服どうする?」


私は顔を上げた。


「服?」


「そう」


夫は私を見る。


「そういう場所用のやつ持ってたっけ」


私は一瞬黙った。


確かに最近は、


ちゃんとした服なんてほとんど着ていない。


仕事も今はオフィスカジュアル程度だし、


休日は楽な格好ばかりだ。


「……あると思う」


自信なく答えると、


夫が笑った。


「怪しいな」


「失礼だな」


私は思わず睨む。


すると夫は肩をすくめた。


「いや、でもせっかくだし」


「せっかく?」


「たまにはそういうの着ればいいじゃん」


私は少しだけ驚いた。


夫がそんなことを言うのは珍しい。


「何それ」


「別に深い意味ない」


夫はそう言って笑う。


でも、


何となく落ち着かなかった。


私は誤魔化すように紙を手に取る。


開始時間は夕方。


場所は駅前のホテル。


思ったよりちゃんとしている。


「……やっぱり面倒かも」


小さく呟くと、


夫が笑った。


「まだ言ってる」


「だって知らない人ばっかりでしょ」


「俺もいる」


私は思わず夫を見る。


夫は特に何でもない顔をしていた。


でも、


その言葉に少しだけ肩の力が抜ける。


私は紙をテーブルへ戻した。


「まだ行くって決めてないから」


そう言うと、


夫は頷く。


「はいはい」


完全に分かってない顔だった。

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