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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第61話 想像できなかった

翌朝。


私はいつものように出勤の準備をしていた。


時計を見る。


少し余裕がある。


急ぐ必要はなかった。


玄関で靴を履いていると、


後ろから夫の声が聞こえた。


「もう行くのか?」


私は振り返る。


「うん」


夫はまだ休みだった。


ソファに座り、


コーヒーを飲んでいる。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


いつものやり取り。


それだけだった。


でも、


ドアを開けようとした時だった。


「今日も忙しいのか?」


私は思わず振り返った。


「ん?」


「最近ずっと忙しそうだから」


私は少し考える。


忙しい。


そう言われると、


そうかもしれない。


でも嫌な忙しさではなかった。


「まあ、それなりに」


そう答える。


夫は小さく頷いた。


「気を付けてな」


私は笑った。


「分かってる」


そして家を出た。


駅へ向かいながら、


少し不思議な気分になる。


夫が仕事のことを聞いてきた。


珍しい。


本当にそれだけなのに、


なぜか少し気になった。


その日の仕事は慌ただしかった。


気が付けば夕方になっていた。


ようやく席を立つ。


会社を出ると、


空は少し赤くなっていた。


家に着いた頃には、


夫はすでに帰っていた。


珍しく、


ダイニングテーブルに本が置いてある。


私はバッグを下ろした。


「何読んでるの?」


夫は顔を上げる。


「会社のやつ」


私は本を見る。


部下の育成について書かれた本だった。


「勉強熱心だね」


そう言うと、


夫は苦笑した。


「来月から新人が入るんだよ」


私は納得した。


「なるほど」


夫は本を閉じる。


そして何気なく聞いた。


「お前はどうだったんだ?」


「何が?」


「新人教育」


私は少し驚く。


夫がそんなことを聞くのは初めてだった。


「別に普通だよ」


そう答える。


夫は納得していない顔をした。


「普通って何だ」


私は思わず笑う。


「普通は普通」


夫も笑った。


でも、


しばらくしてから言った。


「俺さ」


私は顔を上げる。


「うん?」


「お前が働いてるところ想像できないんだよな」


私は一瞬言葉に詰まった。


夫は真面目な顔ではなかった。


本当に不思議そうな顔だった。


「なんで?」


「家だと全然違うだろ」


私は吹き出した。


「どういう意味?」


「だって家じゃのんびりしてるし」


「失礼だな」


夫が笑う。


私も笑った。


でも、


少しだけ思った。


結婚して何年も経つのに、


お互い知らないことはまだあるらしい。


夕食の支度をしながら、


私は来月の集まりのことを考えていた。


面倒だな。


最初に浮かんだのはそれだった。


知らない人ばかりの場所は得意じゃない。


でも、


夫があんなふうに誘うのは珍しい。


私は冷蔵庫を開ける。


「行く気になった?」


後ろから夫の声がした。


私は振り返らないまま答える。


「まだ分からない」


すると夫が笑った。


「じゃあ席だけ取っとく」


その言い方がおかしくて、


私は少し笑ってしまった。

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