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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第57話 実家

日曜日。


駅を出ると、少し風が強かった。


実家までは歩いて十分ほど。


見慣れた道なのに、来るのは久しぶりだった。


インターホンを押す。


すぐにドアが開く。


「いらっしゃい」


母だった。


「こんにちは」


靴を脱いで上がる。


リビングへ入ると、テーブルの上にはお茶とみかんが置かれていた。


冬でもないのに、なぜか実家にはいつもみかんがある。


「座りなさい」


私は笑った。


「何その言い方」


「別に」


母は気にした様子もなく、お茶を入れ始める。


私は椅子に腰を下ろした。


しばらくして母が向かいに座る。


「仕事はどう?」


いきなりだった。


私は苦笑する。


「元気?とかないの?」


「元気そうだから」


母は即答した。


私はみかんを一つ取る。


「仕事は普通」


「忙しい?」


「まあ、それなり」


母は何も言わない。


ただお茶を飲む。


沈黙が苦手な人なら落ち着かないかもしれない。


でも昔からこんな感じだった。


私もみかんの皮をむく。


母は窓の外を見ていた。


「そういえば」


急に立ち上がる。


「ちょっと待ってて」


隣の部屋へ消える。


私は一人でみかんを食べながら待った。


数分後。


母は小さな紙袋を持って戻ってきた。


「これ」


テーブルの上に置く。


私は中を見る。


写真だった。


何枚も入っている。


歓迎会。


忘年会。


社員旅行。


懐かしい顔ばかりだった。


思わず笑ってしまう。


「若いなあ」


母も写真をのぞく。


「今もそんなに変わらないでしょ」


私は次の写真を手に取る。


そこで指が止まった。


写っているのは私だった。


でも、


今見ても少し驚く。


顔色が悪い。


笑っているはずなのに、


全然楽しそうじゃない。


母もその写真を見ていた。


「その頃ね」


私は返事をしない。


「夜中に帰ってきてたでしょ」


母が言う。


「たまに電話しても出なかったし」


私は写真から目を離せなかった。


あの頃は忙しかった。


忙しいのが当たり前だった。


「覚えてる?」


母が聞く。


「覚えてるよ」


そう答えると、


母は小さく頷いた。


それ以上は何も言わなかった。


私も聞かなかった。


しばらくして、


母が立ち上がる。


「晩ご飯どうする?」


話はそこで終わった。


昔からそうだ。


言いたいことを全部言う人じゃない。


帰る頃には日が傾いていた。


駅へ向かう途中、


スマホが震える。


夫からだった。


『帰りに牛乳』


たったそれだけ。


私は思わず笑う。


すぐに返信する。


『了解』


送信してから、


駅前のスーパーへ向かった。

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