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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第52話 いつもの癖

翌朝。


会社へ向かう電車の中で、


私は珍しくスマホを見ていなかった。


窓の外を流れる景色を眺める。


昨夜のことを思い出していた。


「してないわけないだろ」


夫の言葉。


短かった。


でも妙に頭に残っている。


会社に着く。


席に座る。


パソコンを立ち上げる。


すると佐伯がやって来た。


「おはようございます」


「おはよう」


「昨日はちゃんと帰れました?」


私は少し笑った。


「帰れたよ」


佐伯も笑う。


それだけの会話だった。


でも、


少し前ならなかった会話だ。


午前中は順調だった。


問い合わせへの対応。


資料の確認。


打ち合わせの準備。


気づけば昼になっていた。


私は時計を見る。


十二時十分。


立ち上がろうとした時だった。


メールの通知が鳴る。


一件。


また一件。


さらにもう一件。


私は画面を見る。


急ぎの確認依頼だった。


今日中。


できれば午後三時まで。


よくある仕事だ。


私は椅子に座り直した。


少しだけ確認するつもりだった。


気づけば、


周りの席から人がいなくなっていた。


昼休みになっていた。


私はキーボードを打ち続ける。


もう少し。


ここまで終わらせてから。


その時、


机の上に何かが置かれた。


顔を上げる。


佐伯だった。


紙パックのお茶を持っている。


「昼行かないんですか」


私は時計を見る。


十二時四十分。


思ったより時間が経っていた。


「あと少しだから」


そう言うと、


佐伯は呆れた顔をした。


「そのあと少しで昼抜くんですよね」


私は返事に困る。


言われてみれば、


昔からそうだった。


少しだけ。


あと五分。


あと一つ。


そう言いながら、


気づけば夜になっている。


佐伯はお茶を机に置いた。


「逃げませんから」


私は思わず笑った。


「何が?」


「仕事です」


そう言って食堂の方を指さす。


「戻ってきたら続きできます」


私は画面を見る。


メールを見る。


それから立ち上がった。


「分かった」


たったそれだけなのに、


少し不思議だった。


昔の私なら、


絶対に席を離れなかったから。


昼休みの廊下を歩く。


窓から光が入っている。


その時、


スマホが震えた。


夫からだった。


『昨日のカレー、まだ残ってる』


私は思わず笑う。


続いてもう一通。


『今日も早く帰れる?』


私は立ち止まる。


すぐには返事が打てなかった。


帰りたい。


本当にそう思っている。


でも、


仕事は待ってくれない。


私は画面を見つめる。


そして、


ゆっくり返信した。


『頑張る』


送信したあと、


なぜか少しだけ不安になった。


その言葉を、


守れる自信がまだなかったからだ。

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