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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第49話 待ってる

午前中は思ったより静かだった。


昨日までの慌ただしさが嘘みたいだった。


私はパソコンに向かいながら、


何度も時計を見ていた。


十一時。


十二時。


一時。


気づくたびに、


自分で少し笑ってしまう。


佐伯が不思議そうに聞いた。


「何かあるんですか?」


私は首を振る。


「別に」


そう答えたものの、


本当は違った。


今日は早く帰る。


朝、


そう約束した。


ただそれだけだった。


でも、


最近の私にはそれが難しかった。


昼休み。


社員食堂で食事をしていると、


スマホが震えた。


夫からだった。


『今日はカレーにする』


私は思わず笑う。


短いメッセージ。


それだけなのに、


少し嬉しかった。


『楽しみにしてる』


そう返信する。


送信したあと、


自分でも驚いた。


こんなやり取り、


いつぶりだろう。


午後になっても、


大きな問題は起きなかった。


私は少し安心していた。


今日はいける。


六時には会社を出られる。


そう思った。


午後五時四十分。


パソコンを閉じる。


バッグに手を伸ばす。


その時だった。


フロアの奥で誰かの声が上がる。


「え?」


続いて、


別の社員が立ち上がる。


空気が少しざわついた。


私は反射的に顔を上げた。


佐伯がスマホを見つめている。


嫌な予感がする。


「どうしたの?」


私が聞くと、


佐伯はすぐには答えなかった。


そして、


小さく息を吐く。


「フェリクスです」


私は立ち上がる。


「何があったの?」


佐伯が画面をこちらへ向けた。


そこには、


テナント企業からのメールが表示されていた。


たった一行。


でも十分だった。


『契約の見直しをお願いしたい』


私は時計を見る。


五時四十五分。


あと十五分で六時だった。


朝、


夫に言った言葉が頭をよぎる。


『できるだけ早く帰る』


佐伯が静かに言う。


「どうしますか」


私は返事ができなかった。


仕事なら、


残るべきだ。


でも今日は——


初めて、


帰りたいと思っていた。

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