表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/64

第45話 母は母だった

玄関のチャイムがもう一度鳴る。


私はしばらく動けなかった。


「なんで……」


思わず呟く。


母は実家からそう近くない。


連絡もなしに来るような人でもない。


夫が立ち上がった。


「出るよ」


「待って」


そう言った時には、


もうドアが開いていた。


そこに立っていたのは、


やっぱり母だった。


私を見るなり、


開口一番。


「顔色悪いじゃない」


私は拍子抜けした。


ニュースのことを言われると思っていた。


仕事のことを責められると思っていた。


でも母が最初に見たのは、


ニュースじゃなくて私だった。


リビングに入ると、


母はテーブルの上を見回した。


食べ終わった夕飯。


飲みかけの味噌汁。


そして私。


「ちゃんと食べてる?」


夫が苦笑する。


「僕も同じこと聞きました」


母は小さく頷いた。


「でしょうね」


私はため息をつく。


「子どもじゃないんだから」


すると母は即座に返した。


「子どもじゃないから心配なのよ」


私は言葉を失った。


母はバッグの中を探り、


一冊の手帳を取り出した。


見た瞬間、


心臓が止まりそうになった。


「あ……」


それは、


私が前の会社にいた頃の手帳だった。


「実家の棚から出てきた」


母が言う。


私は思わず手を伸ばした。


でも母は渡さない。


パラパラとページをめくる。


会議。


出張。


締切。


打ち合わせ。


予定がびっしり並んでいた。


夫が隣から覗き込み、


小さく息を飲む。


母はあるページで手を止めた。


「倒れる三日前」


私は動けなくなる。


母はそのページを私に向けた。


そこには、


自分でも忘れていた文字が残っていた。



『最近、夫と何を話したか思い出せない』



部屋が静まり返る。


私はその文字から目を離せなかった。


隣の夫も何も言わない。


昔の私が書いた言葉なのに、


まるで今の私に向けられているみたいだった。


母が静かに手帳を閉じる。


「ねえ」


私は顔を上げる。


母はまっすぐ私を見ていた。


「今のあんた、本当に大丈夫?」


私はすぐに答えられなかった。


なぜなら、


その質問を一番自分に聞きたかったのは、


私自身だったから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ