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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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44/64

第44話 出なかった電話

テーブルの上で、


スマホが静かになった。


佐伯からの着信。


でも、


私は手を伸ばさなかった。


夫も何も言わない。


ただ味噌汁を飲んでいる。


部屋には、


テレビの音だけが流れていた。


私はスマホを見つめる。


会社で何かあったのかもしれない。


急ぎの連絡かもしれない。


今までの私なら、


迷わず出ていた。


食事中でも。


夜でも。


休日でも。


そうして、


気づけば仕事が生活の真ん中になっていた。


スマホがもう一度震える。


今度はメッセージだった。


私は思わず画面を見る。


佐伯からだった。


お疲れ様です。

急ぎではありません。

明日で大丈夫です。


私は少しだけ固まった。


夫も画面を見たらしい。


小さく笑う。


「いい部下だな」


私は返事ができなかった。


違う。


佐伯は気を使ったんだ。


私が今、


家にいることを。


夕飯を食べていることを。


仕事より優先するものがあることを。


知っていて。


その時、


夫がぽつりと言った。


「昔はこうじゃなかった」


私は顔を上げる。


夫はテレビを見たまま続けた。


「電話鳴ったら、途中で席立ってた」


私は苦笑する。


覚えている。


外食中も。


映画館でも。


旅行先でも。


いつも仕事が先だった。


「ごめん」


また謝ろうとして、


やめた。


今日はもう、


その言葉ばかりだ。


夫は首を振る。


「謝ってほしいわけじゃない」


静かな声だった。


「ただ」


そこで少し言葉を探す。


「今のお前見てると、また同じになりそうで怖い」


私は何も言えなかった。


窓の外はもう暗い。


テーブルの料理もほとんど食べ終わっている。


昔の私なら、


この時間からまたパソコンを開いていた。


でも今日は違う。


私はスマホを裏返した。


その時だった。


玄関のチャイムが鳴る。


夜九時過ぎ。


夫と私は顔を見合わせた。


こんな時間に来る人なんて、


ほとんどいない。


もう一度、


チャイムが鳴る。


そして玄関の向こうから、


聞き覚えのある声がした。


「いるんでしょ?」


私は息を止める。


——母だった。

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