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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第40話 母の電話

『ニュース、あんたでしょ』


母からのメッセージを見た瞬間、


私はその場で立ち止まった。


廊下の向こうでは、


誰かが電話で謝っている。


コピー機の音。


急ぎ足。


会社全体が落ち着かなくなっていた。


でも、


スマホの一行だけが妙に重い。


私は小さく息を吐いて、


バッグを肩にかけた。


「帰ります」


そう言うと、


佐伯が少し驚いた顔をした。


でもすぐ頷く。


「今日はその方がいいです」


私は返事をする前に、


スマホが鳴った。


母だった。


画面を見たまま、


少し迷う。


でも出なければ、


何度もかかってくる。


私は廊下の端へ移動して通話を取った。


「……もしもし」


『あんた今どこ?』


いつもの声だった。


心配しているのに、


責めてるようにも聞こえる声。


「会社」


少し間が空く。


『また仕事?』


私は壁にもたれた。


「ちょっと手伝ってるだけ」


そう言った瞬間、


母がため息をつく。


『その“ちょっと”で倒れたんでしょ、前』


胸の奥が少し痛む。


私は黙る。


昔、


倒れたあと。


母は病院に来た。


でも開口一番、


『だからやめときなさいって言ったのに』


だった。


責めたいわけじゃないのは分かってた。


でも、


あの時の私は、


誰かに正論を言われる余裕なんてなかった。


『旦那さんは?』


母が聞く。


『ちゃんと帰れてるの?』


私は視線を落とした。


帰れてない。


昨日も遅かった。


今日も、多分遅くなる。


でも、


それを口にすると現実になる気がして、


私は曖昧に笑った。


「大丈夫だよ」


すると母は静かに言った。


『大丈夫って言う時のあんた、全然大丈夫じゃないのよ』


私は言葉を失う。


その時、


廊下の奥が急に騒がしくなった。


エレベーター前に人が集まっている。


受付の女性が慌てた顔で誰かを止めていた。


「申し訳ありません、お約束が——」


次の瞬間、


低い男の声が響く。


「取材だけですので」


私は顔を上げる。


スーツ姿の男が名刺を見せていた。


その後ろには、


カメラを持った人間までいる。


記者だった。


母が電話の向こうで不安そうに聞く。


『ねえ、何かあったの?』


私はすぐ答えられなかった。


その時、


記者の一人がこちらを見た。


目が合う。


そして小さく、


「あ」


と言った。


嫌な汗が背中を流れた。

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