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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第39話 母からのメッセージ

『今、ニュース見た』


夫から届いたメッセージは、


それだけだった。


私はスマホを見たまま動けなくなる。


廊下ではまだ社員たちが慌ただしく動いていた。


電話の音。


誰かの早口。


コピー機の音。


でも、


その一行だけが頭から離れない。


「……大丈夫ですか」


佐伯の声で我に返る。


私は慌ててスマホを伏せた。


「大丈夫」


反射みたいに答える。


でも佐伯は何も言わなかった。


多分、


顔に出ていた。


その時、


遠くのデスクから声が飛ぶ。


「取材申請、また来ました!」


空気がさらに騒がしくなる。


部長が苛立った声を上げる。


「誰が情報流したんだよ……!」


私はその声を聞きながら、


スマホを握りしめる。


夫に何て返せばいいのか分からなかった。


説明する?


大丈夫だと言う?


それとも、


また帰りが遅くなると先に謝る?


考えているうちに、


もう一通メッセージが届く。


『今日は帰れる?』


胸が少し痛くなる。


私は返信画面を開く。


でも、


指が止まった。


帰れるか分からない。


多分、


もう無理だ。


すると横で、


佐伯が小さく言った。


「帰った方がいいですよ」


私は顔を上げる。


「今のあなた、完全に仕事の顔してる」


冗談っぽく言ったのに、


なぜか胸に刺さる。


私は目を逸らした。


その時だった。


会議室のドアが開く。


フェリクス常務が出てくる。


ネクタイを少し緩めながら、


こちらを見る。


そして、


私のスマホ画面に視線を止めた。


「旦那さんですか」


私は小さく頷く。


常務は数秒黙ったあと、


静かに言った。


「ちゃんと帰った方がいいですよ」


また同じ言葉だった。


でも今度は、


少し重かった。


私は苦笑する。


「みんな同じこと言うんですね」


すると常務は真顔のまま返した。


「昔、誰も言わなかったんで」


私は言葉を失う。


常務はそれ以上何も言わず、


廊下を歩いていく。


私はその背中を見つめた。


昔の私は、


帰らなかった。


帰れなかった。


気づけば会社に寝泊まりして、


夫からの連絡にも気づかなくなっていた。


あの頃と、


今の自分が少し重なる。


その瞬間。


スマホがまた震えた。


夫からかと思った。


でも違った。


表示された名前を見て、


背筋が冷える。


——母。


私はゆっくり通知を開く。


そこには、


短く一言だけ書かれていた。


『ニュース、あんたでしょ』

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