第4話 再会
扉を開けた瞬間——
空気が、止まった。
部屋の中にいた全員の視線が、一斉にこちらへ向く。
「……来たか」
低い声。
その一言だけで、背筋がわずかに緊張する。
——やっぱり、この人だ。
昔と変わらない。
でも今は、余裕がないのが一目で分かる。
私は何も言わず、席に座った。
机の上に並べられた資料を、軽くめくる。
一枚。
二枚。
——十分だった。
「……これ、本気でやってるんですか?」
静かに言ったつもりだった。
でも、部屋の空気は一瞬で凍った。
「どういう意味だ」
誰かが苛立った声を出す。
私は顔も上げず、資料を指で叩いた。
「このまま進めたら、三日で終わりますよ」
はっきりと言い切る。
沈黙。
「ふざけるな」
別の男が声を荒げた。
「こっちは専門家が何人も——」
「だから崩れてるんです」
かぶせるように言った。
その一言で、完全に空気が変わる。
私はゆっくり顔を上げた。
「無駄な契約、抱えすぎです」
一枚、資料を引き抜く。
「これ、切ってください」
さらにもう一枚。
「これもいりません」
そして——
「これが一番いらない」
机に軽く置いた。
誰も、すぐには言い返せない。
「……根拠は?」
低い声。
試すような目。
私はため息をついた。
「根拠?」
少しだけ首をかしげる。
「見れば分かるでしょ」
その瞬間——
一人の男の顔色が変わった。
私は見逃さなかった。
「ここ」
資料の一点を指で押さえる。
「数字、ズレてますよね」
静かに言う。
「しかも、わざと」
空気が、凍りつく。
「何を——」
「ミスじゃないです」
遮る。
「こんなズレ方、普通はしない」
視線をまっすぐ向ける。
逃げ場はない。
「……誰かが、仕込んでます」
沈黙。
重い沈黙。
誰も動かない。
でも——
さっき顔色を変えた男だけが、わずかに視線を逸らした。
私はその動きを追う。
「あなたですよね?」
その一言で、すべてが崩れた。
「な、何を言って——」
声が震えている。
もう、隠せていない。
「続けますか?」
静かに言う。
「それとも、ここで話します?」
完全に、勝負は決まっていた。
部屋の全員が、その男を見る。
逃げ場はない。
——そして。
「……っ」
男は何も言えず、うつむいた。
静寂。
誰もが、理解した。
私はゆっくりと背もたれに寄りかかる。
「まず、これを処理しましょう」
淡々と言う。
「話はそれからです」
その瞬間——
部屋の空気が、完全に変わった。
もう誰も、私を疑っていない。
「……相変わらずだな」
低い声。
あの人が、わずかに笑った。
私は何も答えなかった。
ただ、目の前の資料に視線を落とす。
——戻ってきてしまった。
そう思った。
でも。
不思議と、嫌じゃなかった。
そして私は、静かに言った。
「時間、無駄にしたくないので」
顔を上げる。
「次、行きますよ」




