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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第33話 謝罪のあと

誰もすぐには動かなかった。


会議室が静まり返る。


フェリクスの常務は、


私を見たまま何も言わない。


私は頭を下げたままだった。


昔のことは消えない。


あの時、


私は会社を守るためにフェリクスを切った。


でも、


切られた側には人生がある。


店を閉めた社員もいた。


居場所を失った人もいた。


それを、


私は忘れたことがなかった。


「……頭を下げれば終わりですか」


低い声だった。


私はゆっくり顔を上げる。


常務の表情は硬い。


当然だった。


私は小さく首を振る。


「終わらせるつもりはありません」


会議室の奥で、


誰かが椅子を引く音がした。


張りつめた空気の中、


私は資料を開く。


「今回は、フェリクスを残したまま立て直します」


すぐに部長が顔を上げた。


「お、おい……」


無理だと言いたいのが分かる。


予算は限界。


工事も遅れている。


だから皆、


“切る会社”を探していた。


昔みたいに。


でも私は資料をめくる。


「問題は工事費です」


ページを一枚ずらす。


「このまま進めるから崩れる」


常務が眉を寄せた。


私は続ける。


「施設中央のイベントスペース、これを縮小してください」


部屋が少しざわつく。


「その代わり、空いたスペースを短期契約区画に変える」


佐伯がすぐ資料を見直し始めた。


私は説明を続ける。


「固定テナントを減らして、回転型に変えるんです」


「空き区画リスクを減らせる」


部長が低く呟く。


「……そんなこと、できるのか?」


私は静かに答えた。


「今ならまだ間に合います」


数秒の沈黙。


その時だった。


フェリクス常務が初めて資料へ目を落とした。


さっきまで、


一度も見ようとしなかったのに。


私はそれを見逃さなかった。


「それでも」


常務がゆっくり口を開く。


「こちらにメリットがあるとは思えませんが」


鋭い視線。


試されていた。


私は少しだけ息を吐く。


そして、


フェリクスの資料を前へ出した。


「御社の新ブランド」


常務の目が止まる。


「二階中央へ移してください」


部屋の空気が変わる——


私はそこで言葉を切った。


違う。


私は資料の一点を指で押さえる。


「今の場所、人が流れてません」


「でも中央導線なら、客層が変わる」


佐伯が小さく顔を上げる。


常務は黙って資料を見ていた。


私は続ける。


「今のままだと、半年後にまた赤字になります」


「でも配置を変えれば、生き残れる可能性があります」


静かな沈黙。


誰も口を挟まない。


その時。


常務が初めて小さく笑った。


皮肉っぽく。


でもどこか懐かしそうに。


「……本当に変わりませんね」


私は返事をしなかった。


すると常務は椅子へ座る。


そして短く言った。


「続けてください」


後ろで、


部長が小さく息を吐いた。


空気が少し動き始める。


でも私は分かっていた。


これは、


まだ始まったばかりだと。

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