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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第31話 戻り始める

翌朝。


私はいつもより早く起きていた。


昨夜、ほとんど眠れなかった。


キッチンでコーヒーを淹れていると、


スマホが震える。


佐伯からだった。


『先方、予定より早く来ます』


その下に添付された資料を開く。


私は数秒で顔をしかめた。


「……これ、まずい」


来月オープン予定の商業施設。


でも、


メインテナントが撤退寸前だった。


もし抜ければ、


他の出店予定も連鎖的に崩れる。


計画そのものが止まる。


私は無意識にメモを書き始めていた。


どこを削るか。


どこを守るか。


どこなら間に合うか。


頭が勝手に動いていく。


「もう仕事してるの?」


後ろから声がした。


振り返ると、


夫が眠そうな顔で立っていた。


私は慌ててスマホを伏せる。


でも夫は苦笑した。


「昨日、“怖い”って言ってた人の顔じゃないな」


胸が詰まる。


私は視線を落とした。


「……止めなきゃいけないの」


小さく呟く。


「このままだと、全部崩れる」


夫はしばらく黙っていた。


そして、


テーブルのメモを見る。


びっしり書かれた数字と矢印。


夫が小さく息を吐く。


「ほんとに好きなんだな」


その言葉に、


私は何も返せなかった。


好き。


そんなふうに考えたことはなかった。


苦しいのに。


怖いのに。


でも、


問題を前にすると止まれない。


その時、


スマホがまた震えた。


佐伯から追加のメッセージ。


『先方、かなり怒ってます』


私は立ち上がる。


頭の中が一気に切り替わる。


夫がこちらを見る。


私はバッグを掴みながら、


小さく言った。


「……行ってくる」


すると夫が静かに口を開く。


「今日、倒れるなよ」


私は足を止める。


振り返れなかった。


でも、


その言葉だけで胸が少し苦しくなる。


会社へ向かう電車の中。


私は資料を読み続けていた。


そして最後のページで、


指が止まる。


そこには、


撤退を検討しているテナント名が書かれていた。


私は息を止める。


その会社、


昔、私が切った会社だった。

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