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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第28話 知りたいんだよ

会議室の空気は、


夫が帰ったあともしばらく止まったままだった。


誰も口を開かない。


私は社員証ケースを握ったまま、


立ち尽くしていた。


胸の奥が重い。


苦しい。


でも、


一番苦しかったのは——


夫の顔だった。


驚いていた。


戸惑っていた。


そして少しだけ、


傷ついていた。


「……今日はここまでにしましょうか」


部長が気まずそうに言う。


周囲も慌てて動き始める。


でも私は動けなかった。


その時。


「追いかけなくていいんですか」


佐伯の低い声。


私は顔を上げる。


「……分かってる」


小さく返す。


でも、


足が動かなかった。


何をどう説明すればいいのか分からない。


昔のこと。


会社のこと。


壊れたこと。


全部、


夫にはちゃんと話していない。


話したら、


今の穏やかな生活まで壊れそうで怖かった。


「あなた、昔からそうですよね」


佐伯が静かに言う。


私は眉を寄せた。


「大事なことほど、黙ったままにする」


胸が痛む。


図星だった。


昔の私は、


弱さを見せるのが苦手だった。


だから仕事でも、


家でも、


一人で抱え込んでいた。


その結果、


最後には壊れた。


「……帰る」


私は鞄を掴む。


もうこれ以上ここにいたくなかった。


夜道を歩く。


スマホを見る。


夫からの連絡は来ていない。


それが逆に苦しい。


家の灯りが見えた時、


私は少しだけ立ち止まった。


帰りづらかった。


でも帰らないわけにはいかない。


私は静かに玄関を開ける。


「……ただいま」


返事はすぐにはなかった。


リビングへ行く。


夫はソファに座っていた。


テレビはついている。


でも多分、


見ていない。


私は小さく息を飲む。


夫はしばらく黙ったあと、


静かに言った。


「……再建の女王って何」


胸が止まる。


やっぱり、


聞かれると思った。


私は視線を落とす。


夫は怒っていなかった。


でも、


その声は少し震えていた。


「俺」


夫がゆっくり言葉を続ける。


「お前のこと、ちゃんと知ってると思ってた」


その一言が、


深く刺さる。


私は何も言えない。


夫は苦しそうに笑った。


「でも今日、会社のお前見て」


「全然知らない人みたいだった」


空気が静かに止まる。


私は唇を噛む。


違う。


本当は違うと言いたかった。


でも、


違わなかった。


会社にいる時の私は、


昔の自分に戻り始めている。


「……ごめん」


またその言葉が出る。


すると夫は小さく首を振った。


「謝ってほしいわけじゃない」


私は顔を上げる。


夫はまっすぐ私を見ていた。


「知りたいんだよ」


胸の奥が強く揺れる。


「お前が、昔どんなだったのか」


私は息を止める。


逃げられないと思った。


もう、


隠したままではいられなかった。

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