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夫に「ただの主婦」と言われた私、実は誰かの人生を変えていた  作者: すみれ


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第21話 変わってしまったもの

『今日、早く帰れそう?』


夫からのメッセージを、


私は何度も見返していた。


たったそれだけの言葉なのに、


胸の奥が落ち着かない。


「帰らないんですか?」


後輩の声で我に返る。


私は慌ててスマホを閉じた。


周囲を見ると、


オフィスにはまだ人が残っている。


でも空気は朝とは違った。


みんな、


どこか静かだった。


そして時々、


こちらを見ている。


私はその視線に気づかないふりをした。


「今日、本当にすごかったです」


後輩が小声で言う。


「佐伯さん、完全に空気変わりましたよね」


私は苦笑する。


「たまたまだよ」


でも後輩は首を振った。


「違います」


その目は真剣だった。


「部長も、みんなも、助かったって顔してました」


私は返事ができない。


昔もそうだった。


誰かに頼られるたび、


もっと応えなきゃと思った。


気づけば、


全部背負っていた。


だからもう、


戻りたくなかったのに。


「……帰ります」


私は鞄を持ち上げる。


その時。


「少し話せますか」


低い声。


振り返ると、


佐伯が立っていた。


後輩が一瞬で緊張する。


私は小さく息を飲んだ。


会社近くのカフェ。


向かいに座る佐伯は、


相変わらず無駄なことを話さない。


私はコーヒーに視線を落としたまま言う。


「何の用?」


佐伯は静かに私を見る。


「本当に気づいてないんですか」


私は眉を寄せる。


すると佐伯は低く続けた。


「周り、もう完全にあなたに頼り始めてます」


胸がざわつく。


私は視線を逸らした。


「そんなつもりじゃ——」


「あなたがそのつもりなくても同じです」


言葉を遮られる。


私は黙るしかなかった。


佐伯は小さく息を吐く。


「昔もそうだった」


「気づいたら全部抱えてた」


その言葉に、


昔の記憶が蘇る。


終電。


積み上がる資料。


眠れない夜。


そして、


壊れていく自分。


私は小さく呟く。


「……もう、あんなふうにはならない」


佐伯はしばらく黙っていた。


やがて静かに言う。


「旦那さんは、今のあなたを知ってるんですか」


空気が止まる。


私は顔を上げる。


佐伯の目は真剣だった。


私はすぐに答えられない。


夫は、


今の穏やかな私しか知らない。


毎日ちゃんと帰って、


普通に笑って、


普通に暮らす私。


昔みたいに、


仕事で何も見えなくなる私じゃない。


「……関係ないでしょ」


やっとそれだけ返す。


すると佐伯は苦笑した。


「関係ありますよ」


「あなた、多分また無理するから」


その瞬間、


スマホが震えた。


夫からの電話だった。


私は画面を見つめる。


佐伯も黙る。


数秒迷ってから、


私は電話に出た。


「……もしもし」


『まだ会社?』


夫の声。


いつもの優しい声。


でも私は、


すぐに答えられなかった。


その沈黙だけで、


何かが変わってしまった気がした。

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